大リーグ選手会が「世界最強の労組」である3つの理由

去る202年12月28日(月)、日刊ゲンダイの2020年12月29日号25面に連載「メジャーリーグ通信」の第83回「大リーグ選手会が「世界最強の労働組合」である3つの理由」が掲載されました[1]。

今回は、経営陣にとって手ごわい存在である大リーグ選手会の「力強さ」の理由を「実行力」「団結力」「資金力」の3つの視点から検討しています。

本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。

*********************
大リーグ選手会が「世界最強の労組」である3つの理由
鈴村裕輔

大リーグ選手会は、日本ではしばしば「全米最強の労組」あるいは「世界最強の労組」と呼ばれる。

米国には全米自動車労働組合(UAW)や全米鉄鋼労働組合(USW)など、資本側と激しく対立する強力な労働組合があるし、フランスには戦闘的な組合も少なくない。そのため、選手会に与えられた呼び名はやや過大な評価であると言えるだろう。

しかし、1994年から1995年にかけて世界のプロスポーツ史上最長の232日に及ぶストライキを行ったことを振り返るだけでも、確かにMLBPAが全米あるいは世界でも指折りの、強力な労働組合であることが分かる。

そして、選手会の実力と存在感は、主として「実行力」、「団結力」、「資金力」の3点によって高められてきた。

「実行力」に関して、1965年の発足当初は親睦団体であった選手会を労働組合に変貌させたのは、1966年から1983年まで第3代専務理事を務めたマービン・ミラーだ。

ミラーは、経営者や機構との交渉で選手の権利の擁護を強硬に主張し、1968年の選手年金基金制度を確立や1976年のフリー・エージェント制度の導入などを実現する。

さらに、1972年から1981年まで5回のストライキを断行するなど、ミラーも選手会も、要求の現実のものにするためには安易な妥協はしないことを実際の行動で示したのだった。

また、第2の特徴である「団結力」を象徴するのが、スト破りに対する厳格な対応である。

1994年に始まったストライキでは、1995年のスプリング・トレーニングやオープン戦に大リーグ契約を結ぶ選手が参加しなかった。そのため、経営者側は代替措置としてマイナー・リーグの選手を昇格させた。

一方、1995年にストが終結して公式戦が始まると、代替選手の多くが大リーグに昇格したものの、「スト破り」として選手会への参加が拒否された。経営者側による強制的な措置であったとはいえ、代替選手たちは「裏切者」と見なされたのである。

こうした結束力の強さは、経営者側にとっては脅威となる。

第3の「資金力」を支えるのが、野球カードやビデオ・ゲームなどのライセンス収入だ。

選手会は各選手から肖像権の管理を一括して受任し、事業者からの契約料は選手会の活動の原資となる。

2003年11月にバリー・ボンズが自らの肖像権の管理を選手会から引き揚げた際、他の選手から非難の声が起きた、これは、ボンズの姿勢が大リーグの選手全体の利益を考慮しない、身勝手な態度と映ったからだ。

このような3つの要素が重なり合うことで、2020年シーズンの開幕問題でも、選手会は最後まで主張を曲げず、選手の権利の擁護という方針を貫いたのである。
*********************

[1]鈴村裕輔, 大リーグ選手会が「世界最強の労働組合」である3つの理由. 日刊ゲンダイ, 2020年12月29日号25面.

<Executive Summary>
Three Reasons for the Mightiness of the MLBPA (Yusuke Suzumura)

My article titled "Three Reasons for the Mightiness of the MLBPA" was run at The Nikkan Gendai on 28th December 2020. Today I introduce the article to the readers of this weblog.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?