「7日間ブックカバーチャレンジ」を振り返る(2)

去る4月28日(火)から5月4日(月)まで、評論家の小林淳さんからのご指名で「7日間ブックカバーチャレンジ」に参加しました。

期間中、私は7日間で合計8冊を取り上げました。今回は、前回[1]に続き、取り上げた本と寸評をご紹介します。

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(4)第4回目(2020年5月1日[金])
「7日間ブックカバーチャレンジ」も第4日目となりました。

今回は中日ということで、野村兼嗣の『エジソン』(ポプラ社、1959年)とチェリー・ガラード『悲劇の南極探検』(編纂:保永貞夫、あかね書房、1976年)の2冊取り上げます。

『エジソン』は文字通り「発明王」トーマス・アルバ・エジソンの伝記です。

本書は、父方の祖母が私の5歳の誕生日のお祝いとして贈ったもので、私にとっては絵本以外で初めて手にした書籍となります。

小学校の教員から「馬鹿だ」と面罵され、母の手ほどきで勉強に励んだ幼年期、鉄道の仕事に携わっていた際、列車の一隅で化学の実験を行っていたところ誤って薬品を床にこぼして失火し、車掌から顔を殴られたために耳が不自由になった逸話、さらに発明家として名を成して「メンロパークの魔術師」と呼ばれたこと、さらに電灯の発明における苦労などは、今も明瞭に思い出される場面です。

一方、『悲劇の南極探検』は、やはり父方の祖母が私の小学校の入学祝として贈った「少年少女世界の大探検」の1冊です。

全12巻の「少年少女世界の大探検」はいずれも興味深い内容ながら、とりわけハワード・カーターの手になる『ピラミッドの秘密』とともに本書は大変印象深いものでした。

何より、アムンゼンとの激しい「南極一番乗り」の争いを行っていたスコットが、思いがけない出来事と状況の判断を誤ったことからアムンゼンの後塵を拝するだけでなく、スコット隊の全滅という最後を迎える『悲劇の南極探検』は、小学生ながらに衝撃的でした。

用意した燃料が尽き、携帯品の中にあった魚の缶詰の脂に火を灯し、「南極到達」の失敗を英国民に謝罪する手紙を凍傷で自由が利かない手で書くスコットの描写は、最終ページの「風を受けながら南極の空に浮かぶスコットの顔」とともに、初めて手にしてから37年を経ても鮮やかに蘇るものです。

その意味で、『エジソン』と『悲劇の南極探検』は、私の読書の体験の原型を形作っていると言えるでしょう。

(5)第5回目(2020年5月2日[土])
「7日間ブックカバーチャレンジ」の第5日目に取り上げるのは、陳舜臣の『中国の歴史 近・現代篇』全2巻(講談社、2007年)です。

中学2年生であった1990年の夏に母方の祖父から、当時祖父が所有していた、司馬遼太郎と陳舜臣の作品の発行済みの文庫本の全冊を譲ってもらったのが、陳舜臣の作品に親しんだ最初でした。

これ以降から高校までは、陳舜臣の作品が刊行されるたびに買い求めていたものの、大学生になってからはなかなか手が伸びないままでした。

そのような陳舜臣の作品を再び手に取るようになった契機が、2015年1月21日の陳舜臣の死でした。

往時をしのぶ意味も込めて、購入したまま読んでいなかった本書を開きました。

『中国の歴史 近・現代篇』は純然たる歴史書ではないものの、小説でも随筆でもなく、『中国の歴史』全15巻(平凡社、1980-1983年)や『中国五千年』(平凡社、1983年)、『小説十八史略』全6巻(毎日新聞社、1977-1983年)と同様の、歴史上の出来事を史資料に依拠しながら、一人ひとりの人間の生きた証として描き出す本書は、学問としての歴史の叙述の方法には従っていません。

一方で、黄遵憲や唐才常、邱逢甲から秋瑾や魯迅に至る人々の詩を適宜参照するなど、『唐詩新選』(新潮社、1989年)の著者らしい叙述の方法を採用している点は、一般的な歴史書とは異なる、本書の特徴です。

2015年1月23日以来、上下巻を読み終えるたびに読みなおしており、今や私にとって「帰宅後に最初に読む本」として手放すことが出来ません。

上下巻を読み終えた回数は20回を超えており、「読書百遍」に最も近いのが、『中国の歴史 近・現代篇』全2巻となっています。
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[1]鈴村裕輔, 「7日間ブックカバーチャレンジ」を振り返る(1). 2020年5月6日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/4c570115d05e0645f8e579943da0cec4?frame_id=435622 (2020年5月16日閲覧).

<Executive Summary>
The 7 Days "Book Cover Challenge" (2) (Yusuke Suzumura)

I participated with The 7 Days "Book Cover Challenge" on 28th April through 4th May 2020. On this occasion I introduce my selection to the readers of the weblog for three times.

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