株価やエネルギー価格の高騰、物価騰貴の恩恵を受けるのは経営陣だけ

去る11月1日(月)、日刊ゲンダイの2021年11月2日号27面に私の連載「メジャーリーグ通信」の第103回「株価やエネルギー価格の高騰、物価騰貴の恩恵を受けるのは経営陣だけ」が掲載されました[1]。

今回は、現在の世界的なエネルギー高や物価騰貴が米国の経済と球界にどのような影響を与えるかを検討しています。

本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。


株価やエネルギー価格の高騰、物価騰貴の恩恵を受けるのは経営陣だけ
鈴村裕輔

ネットフリックスで放送されている韓国のテレビドラマ『イカゲーム』が、世界で大きな話題を集めている。米国では、今年のハロウィンの仮装は『イカゲーム』の登場人物が人気で、関連する衣装が売り切れるほどだ。

456億ウォンの賞金を目当てに456人が命を懸けて争う様子は、視聴者に金銭の持つ魔力と魅力を教える。

一方、ドラマの中ではなく、現実の世界でも金銭を巡る問題は「コロナ下」の日常生活の隅々にまで及んでいる。

EUからの離脱による移民の減少などによる労働力不足と新型コロナウイルス感染症により停滞していた経済活動の再開が重なり、英国ではガソリンを運搬する人員の不足が生じた。ガソリンスタンドが閉鎖に追い込まれたり、ガソリンを入手するために行列を作る様子は、衝撃的な映像として世界各国で報じられている。

また、フランスではエネルギー価格の高騰を受けて主食であるパンの値段が上昇しているし、日本でも今年10月から電気料金やマーガリン、コーヒー豆が値上げした。

エネルギー価格の上昇が短期間で収束することは難しく、2022年も同様の傾向が続くとされている。

物価騰貴の影響が人々の生活に徐々に現れる中で、堅調な米国の株式相場の恩恵を受ける層も少なくない。とりわけ、スポーツの分野では、世界的なエネルギー価格の高騰を背景に、石油や天然ガスなどに関係する企業家たちが金銭的に有意な立場を保つことになる。

新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、欧州サッカー連盟に加盟するクラブに課されている財政健全化のための規制が緩和されたため、カタール投資庁が所有するパリ・サンジェルマンは有力選手を積極的に獲得している。こうした政策は、エネルギー価格の高騰により一層加速することが予想される。

大リーグでも、球団経営者として名を連ねる投資家などは、世界的な株式市場の好調さを受け、「コロナ禍」で生じた金銭的な損失を取り戻しつつある。

ただ、経営陣の状況が回復したからといって、球界全体を取り巻く環境がただちに好転する保証はない。

むしろ、今年9月の消費者物価指数が前年同月比で5.4%上昇するなど、米国ではインフレの懸念が高まる。

食料品や燃料など生活必需品の価格が高くなれば、それだけ余暇にかける資金は乏しくなる。しかも、大リーグの入場料は上昇することはあっても値下げされることはまれだから、家計にゆとりのない層にとっては球場に足を運ぶ優先度は低くならざるを得ない。

結果として、中間層の細った現在の米国では、エネルギー価格の高騰や物価騰貴の恩恵を受けるのは経営陣のみという、見慣れた光景が繰り返されることになるのである。


[1]鈴村裕輔, 株価やエネルギー価格の高騰、物価騰貴の恩恵を受けるのは経営陣だけ. 日刊ゲンダイ, 2021年11月2日号27面.

<Executive Summary>
Only MLB Owners Will Be Able to Enjoy Inflation (Yusuke Suzumura)

My article titled "Only MLB Owners Will Be Able to Enjoy Inflation" was run at The Nikkan Gendai on 1st November 2021. Today I introduce the article to the readers of this weblog.


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?