「安倍晋三元首相襲撃事件」が許されないのはなぜか

本日11時30分頃、奈良市内で演説中の安倍晋三元首相が銃で撃たれました[1]。

本論公開の時点で安倍元首相は心肺停止状態であり、同氏の命に別条がないことが願われます。

それとともに、今回の事件は政治活動を暴力で妨げようとするものであり、議会政治に対する挑戦に他なりません。

すなわち、もしこうした行為を許すのであれば、自らの主義主張と相容れない政策を唱えたり遂行する政治家などへの襲撃事件を許容することに繋がりかねず、政治家が生命の危険を感じて自らの信条に従って政治活動を行うことを難しくしかねません。

過去の歴史を振り返れば、首相在任中の遭難事件としては原敬暗殺事件や濱口雄幸襲撃事件があり、戦後も岸信介や大平正芳が遭難しています。また、首相退任後では、1936(昭和11)年の二・二六事件における斎藤実や高橋是清の事例が挙げられます。

原、濱口、斎藤、高橋の事例では、「目的が正しければ行為は問わない」という社会の雰囲気が議会制度の崩壊と終焉を加速させたことは、周知のとおりです。

一方、岸や大平の事例では、法の定めに従い犯人が適正に処罰されたこともあり、今日に至るまで議会政治への信認は揺らいでいません。

しかし、もしわれわれが、「やむに已まれぬ事情があったから犯行に及んだのだろう」「安倍さんも首相在任中にはいろいろと批判があったから、こうした結果になったんだ」といった考えを持つとすればどうなるでしょうか。

われわれのわずかな意識の隙間から議会政治への信認が揺るぎかねません。

従って、襲撃者の事情や主義主張がどのようなものであるとしても、今回の一件については同情や許容を行う余地は一切ないのです。

いわば、襲撃されたのは一人の安倍晋三氏であるとしても、事柄そのものは政治に携わる者一人ひとりへの挑戦に他ならないのです。

一方、政府や各党の関係者、あるいは報道機関が今回の出来事が議会政治に大きな影響を与えることを適切に理解しているかはいささか心許ないところです。

例えば、松野博一官房長官による緊急記者会見[2]については、本件を「蛮行」とし、「断固非難する」としたことこそ評価できるものの、議会政治に対する挑戦でありいかなる理由があっても許容できないことを明言しなかったことから、論評に値しないものとなっています。

また、各党の反応も政府の姿勢と大同小異であって、事態の深刻さをどこまで把握できているかは不明です。

さらに、こうした行為に理解の余地を残すような報道は決して認められるものではないため、報道各社には、安倍晋三元首相を対象とするか否かにかかわらず、今回の襲撃事件のような政治活動を暴力で妨げようとする行為が日本の議会政治にとって断じて許容できないことを、繰り返し強調することが求められます。

以上より、今回の襲撃事件について、党派の違いを超えて各党が連携し、暴力による政治への介入への反対の姿勢を明示するとともに、報道各社も事態を適切に理解し、暴力による政治の妨害への反対を明確にすることが不可欠です。

上記の事柄はいずれも基本的な内容であるとともに重要な点でもありますから、何度繰り返し、強調しても十分ということはありません。

今一度、こうした点を確認するため、あえて本論を公開する次第です。

[1]安倍元首相 銃で撃たれ心肺停止か 40代の男を逮捕【速報中】. NHK NEWS WEB, 2022年7月8日, https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220708/k10013707601000.html (2022年7月8日閲覧).
[2]安倍元首相の「容態は不明」、松野官房長官が会見…閣僚らに東京に戻るよう指示. 読売新聞オンライン, 2022年7月8日, https://www.yomiuri.co.jp/politics/20220708-OYT1T50174/ (2022年7月8日閲覧).

<Executive Summary>
We Do Not Allow the Gunshot Attack against Former Prime Minister Shinzo Abe (Yusuke Suzumura)

Today Mr. Shinzo Abe, a Former Japanese Prime Minister, is shot at the City of Nara at 11:30 AM. It is unacceptable incident and violence not only for Mr. Abe and the parliamentary government, since it might be the first step to invade free discussion and policy making by the statesperson.

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