「没後30年」で思い出したレナード・バーンスタインを巡るいくつかのこと

去る10月14日、指揮者で作曲家、ピアノ奏者のレナード・バーンスタインさんが72歳で逝去してから満30年が経ちました。

米国を拠点として活動するヨーロッパの指揮者は多いものの、米国で生まれ育ち、国際的に活躍する人材が乏しかった時代にあって、米国人として初めて世界の楽壇の第一線で活躍したバーンスタインさんの事績については広く知られるところです。

私が初めてバーンスタインさんのことを自覚的に眺めたのは1989年のことで、12月25日にベルリンの壁の崩壊を記念してベートーヴェンの交響曲第9番「合唱付き」を指揮する様子がNHK総合テレビの『NHKニュース21』で紹介された時でした。

その後、1992年にソニー・クラシカルから発売されたCD『星条旗よ永遠なれ』が、私の購入したバーンスタインさんの演奏でした。

これを契機にバーンスタインさんの指揮する音源を買い求めたものでした。特にソニー・クラシカルによる「バーンスタイン・ロイヤル・エディション」は、容器が藍色を基調とし、水彩画を嗜む英国太子チャールズ殿下の作品を解説の表紙にあしらう仕様が印象的で、収録された作品の演奏と合わせて、制作者の力の入れようが実感されたものです。

一連の録音の中でも特に思い出深いのは、1982年にロサンゼルス・フィルハーモニックと収録した『ウェスト・サイド・ストーリー』のシンフォニック・ダンスの「マンボ」でした。

曲中で演奏者の発する「マンボ」という掛け声は力点が"mamBo"と「ボ」に置かれ、日本で演奏される際の"Mambo"と「マン」を強調する掛け声との違いは興味深く思われました。

また、1986年にウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と収録したシベリウスの交響曲第2番は第1楽章が一般的な演奏よりも緩やかな速さであることは周知の通りです。この演奏を初めて耳にしたときは、一つひとつの音符を丁寧に腑分けし、一旦解体された譜面を一つの作品に仕立てる過程が克明に描かれており、バーンスタインさんの音楽家としての力量の大きさを痛感しました。

さらに、ウィーン・フィルと1985年に録音されたショスタコーヴィチの交響曲第9番のCDは、特典として付録されていた練習の様子が興味深く、第1楽章でピッコロに対して「モンゴル軍が草原を駆け抜けるように」と指示を出す光景を見た後に演奏を聞くと、音楽がより精彩のあるものに感じられました。

指揮者としてだけではなく、作曲、演奏、教育、著述など様々な分野で大きな足跡を残したバーンスタインさんは「大音楽家の時代」であった20世紀を象徴する一人であり、今もなお大きな存在であると、改めて思われた次第です。

<Executive Summary>
Miscellaneous Episodes of Mr. Leonard Bernstein: On the Occasion of the 30th Anniversary of His Death (Yusuke Suzumura)

The 14th October 2020 was the 30th Anniversary of the death of Mr. Leonard Bernstein, a conductor, composer, pianist, educator, and author. In this occasion I remember my miscellaneous episodes of Mr. Bernstein.

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