レンジャーズが本拠地を満員にした裏に州知事の計算

去る4月12日(月)、日刊ゲンダイの2021年4月13日号26面に連載「メジャーリーグ通信」の第90回「レンジャーズが本拠地を満員にした裏に州知事の計算」が公開されました。

今回は、テキサス州のアボット知事の大規模催事の観客制限解除の措置が大リーグに与える影響を検討しています。

本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。

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レンジャーズが本拠地を満員にした裏に州知事の計算
鈴村裕輔

4月5日、レンジャーズにとって2021年最初の本拠地グローブライフ・フィールドでの公式戦は、全米の注目を集めた。

対戦相手であるブルージェイズのキャバン・ビジオとブラディミール・ゲレーロ・ジュニアという、いずれも野球殿堂入りした父を持つ選手が活躍したからではない。新型コロナウイルス感染症の拡大が始まって以降、レンジャーズが北米のプロスポーツとして初めて観客の入場制限を撤廃し、グローブライフ・フィールドが満席となったからだ。

球場の定員40518人に対して有料入場者数は38232人であり、球団が無料で招待した医療従事者は観客に加えられていない。そのため、この日の球場が文字通り満員であったことが分かる。

しかも、球場内の共有部では物理的距離が取られ、物品を購入する際の支払いもキャッシュレスと「コロナ対策」はなされていたものの、客席ではマスクを外す者の数が多く、ビールなどを片手に声援を送る様子は、「コロナ禍」以前の球場に戻ったかのような錯覚を与えるものだった。

レンジャーズが約4万人を受け入れられたのは、テキサス州知事グレッグ・アボットが州内で一度に許可される観客数の制限を正式に撤廃したからにほかならない。

それでは、アボットはなぜ制限を解除したのだろうか。

テキサス州民が雇用の機会を奪われ、小規模事業者が経費の支払いに苦慮する状況を克服するというのが、アボットの主張だ。また、予防接種の件数の増加や新型コロナウイルス感染症の治療法の改善なども、解除措置の根拠として挙げられている。

こうした点からは、アボットが経済活動を優先していることが窺われる。

さらに、アボットが2022年の州知事選に出馬する計画であることも状況を複雑にしている。すなわち、アボットは「コロナ禍を乗り切った州知事」として選挙に臨み、3選を目指している。大規模な催事での入場制限や外出時のマスクの着用義務などを撤廃することは、象徴的な施策だったのである。

大統領のジョー・バイデンが「無責任な行為」と非難しても、アボットは一向に意に介さない。むしろ、レンジャーズとともにテキサス州に所在するアストロズの場合も4月8日の本拠地での開幕戦の観客が定員の50%を超える21765人となっており、州知事の政策に沿った行動をとっている。

観客数の制限の撤廃は、観客の集団感染の発生という危険性は排除できないものの、球団側にとっては売り上げの確保という点で望ましい。その意味で、今回の措置は球団には利益をもたらし、アボットには強い指導者という印象を有権者に与える、双方の利害が一致するものだったのである。
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[1]鈴村裕輔, レンジャーズが本拠地を満員にした裏に州知事の計算. 日刊ゲンダイ, 2021年4月13日号26面.

<Executive Summary>
The Reason Why Globe Life Field Was Full at the Home Opener (Yusuke Suzumura)

My article titled "The Reason Why Globe Life Field Was Full at the Home Opener" was run at The Nikkan Gendai on 12th April 2021. Today I introduce the article to the readers of this weblog.

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