ヴィクター・ハーバートの米国の音楽界の発展への寄与を示した『クラシックの迷宮』の特集「ヴィクター・ハーバート没後100年」

本日NHK FMで放送された『クラシックの迷宮』は、今年5月26日に没後100年を迎えたヴィクター・ハーバートを特集する「ヴィクター・ハーバート没後100年」でした。

アイルランドに生まれ、ドイツやオーストリアでチェロ奏者として活躍し、1880年代に渡米して作曲活動を本格化させてオペレッタやミュージカルの作品を手掛けて1900年代初頭から1940年代まで広く演奏されたものの現在では交響管弦楽の公演で取り上げられる機会がほとんどないのがハーバートです。

今回は、そのようなハーバートがどのような姿勢で音楽作りに取り組んだのかを、代表的な管弦楽曲やオペレッタなどを通して検討する試みとなりました。

マントヴァーニがしばしば取り上げた作曲家であり、1940年代に英国で軽音楽が流れる際によく聞かれたのがハーバートであったこと、またチェロ奏者として音楽活動を始めたことから特にチェロ協奏曲に妙味を発揮したことを実際の作品に即して紹介したことなどは、テレビアニメの主題歌やゲーム音楽からオラトリオまで取り上げるこの番組ならではのものでした。

あるいは、リヒャルト・タウバーやアメリタ・ガリ・クルチら一時代を画した著名な歌手たちがハーバートの作品の録音に参加していたことは、同時代の音楽家たちの間での評価の高さを示していました。

また、渡米後は北米の先住民の音楽や伝承を摂取して「ヨーロッパもどき」の音楽から脱却した「アメリカらしい音楽」を作ろうと模索したことや、歌劇を作ろうと志つつも、オペレッタからミュージカルの線で作曲し、そこからヒット作もヒットナンバーも生まれたという指摘も興味深いものです。

何故なら、ハーバートの体験は滞米時に先住民の音楽に着想を得て交響曲第9番を作曲したもののヨーロッパの作曲家であり続けたドヴォルザークとも、ガーシュインやコール・ポーター、さらにはコープランドやバーンスタインなどの米国の次世代以降の作曲家とは異なる努力と葛藤を経たものであることを示すからです。

それだけに、ハーバートの代表作ともいうべき1917年のロマンティック・コミック・オペラ『アイリーン』は歌劇を作ろうというハーバートの宿願の一端が果たされたものであり、司会の片山杜秀先生による解説を受けた後に耳を傾けると、その特徴がより一層明らかになるものでした。

そして、最後に取り上げられたのがチェロ奏者として活躍した経験を活かした小品『山の小川』であったところに、今回の特集の構成の妙がありました。

現在、定期的に公演で取り上げられる作曲家の数はごく一部であり、その他の作曲家の音楽は演奏の機会さえ得られないのが実情です。

このような中で、没後100年という節目を活かす形でハーバートの音楽を入念に検討し、紹介したことは、『クラシックの迷宮』の持つ意義と価値をより高からしめるものであったと言えるでしょう。

<Executive Summary>
The Featured Programme of the "Labyrinth of Classical Music" Demonstrates the Importance and Remarkable Efforts of Victor Herbert to American Classical Music (Yusuke Suzumura)

The NHK FM's programme "Labyrinth of Classical Music" featured Victor Herbert to celebrate his 100th anniversary after the death. It was a remarkable opportunity for us to understand the importance and remarkable contribution of Herbert to the development of American classical music.

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