大リーグ機構の国際戦略本当の思惑

去る7月3日(月)、日刊ゲンダイの2023年7月4日号26面に連載「メジャーリーグ通信」の第142回「大リーグ機構の国際戦略本当の思惑」が掲載されました[1]。

今回は、今年6月に4年ぶりに開催された「ロンドン・シリーズ」の意義について、大リーグ機構の国際戦略とともにロブ・マンフレッド・コミッショナーの公式戦の試合数削減を巡る談話から検討しました。

本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。


大リーグ機構の国際戦略本当の思惑
鈴村裕輔

コロナ禍による中断を経て、大リーグの「ロンドン・シリーズ」が4年ぶりに開催された。

カーディナルスとカブスが対戦した今回は、6月24日の第1戦に54662人、25日の第2戦に55565人が来場し、2日間で約11万人が観戦し、会場となったロンドン・スタジアムは活況を呈した。

大リーグ機構の「ロンドン・シリーズ」に対する意気込みの高さは、プレミアリーグのウエストハム・ユニナイテッドの本拠地であるロンドン・スタジアムを、18日間にわたって400人の作業員を動員して大リーグ仕様の球場に仕立て上げたことからも明らかだ。

2022年の時点で「ロンドン・シリーズ」は2025年までの開催が決まっており、それ以降も定期開催となる可能性が高まっている。いずれ、大リーグにとって国外での公式戦が特別な出来事ではなくなる日が来るかもしれない。

実際、コミッショナーのロブ・マンフレッドに至っては「現行の162試合制を154試合制に戻せば日程に余裕が生まれ、国外での公式戦の開催がより容易になる」と発言し、公式戦の試合数の変更にまで言及しているのである。

大リーグがそれまでの154試合制から162試合制に移行したのは1961年のことである。それ以来現在まで続く162試合制の変更の可能性を指摘し、「実現が容易な選択肢」と発言するマンフレッドの姿は、機構にとって十分な経済力のある国で行う公式戦の意味の大きさを示している。

もちろん、試合数の削減はマンフレッドが指摘するほど簡単なものではない。

現在の大リーグの選手の契約は162試合制を前提になされている。それが154試合となれば、経営者側は当然のように年俸の水準を試合数の削減と同じ5%程度の減額するよう主張することになる。

こうした展開が明らかなだけに、もし機構がコミッショナーの談話の域を超え、正式な案として試合数の削減を提起すれば、選手会が強硬に反発することは必至である。しかも、マンフレッドは就任時にも試合数の削減を提案したものの、反対されている。

それにもかかわらず「試合数を削減すれば北米以外での公式戦も行いやすい」と発言する背景には、北米における野球人口が減少しており、野球が普及していない地域を開拓しなければ、やがては優れた選手の獲得に悪影響が生じるという懸念がある。

野球の国際化という誰もが反対しにくい大義名分を掲げ、一方で将来の選手の獲得先を確保し、他方で経営者が大きな負担と訴える高額の年俸を抑制しようとするのは、交渉事を得意とするマンフレッドらしい発想である。

機構の国際戦略は、北米域内の事情を強く反映した、表と裏の両面を持つ政策のなのだ。


[1]鈴村裕輔, 大リーグ機構の国際戦略本当の思惑. 日刊ゲンダイ, 2023年7月4日号26面.

<Executive Summary>
The MLB's True Strategy beheind the London Series (Yusuke Suzumura)

My article titled "The MLB's True Strategy beheind the London Series" was run at The Nikkan Gendai on 4th July 2023. Today I introduce the article to the readers of this weblog.

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