【開催報告】野球文化學會第5回研究大会

本日、13時から17時10分まで野球文化學會の第5回研究大会がオンライン形式で開催されました。

今回も例年通り第1部として一般研究発表が、第2部に「野球と記録」と題してシンポジウムが行われました。

各報告の概要は以下の通りでした。


第1部一般研究発表(座長:中村哲也[高知大学])
(1) 松原弘明(電気通信大学)/プロ野球球団の球団歌の歌詞が有する地域への訴求構造分析

ホークスとライオンズを対象として、プロ野球団の球団歌の歌詞が地域に対してどのような訴求力を有するかを検討した。その際、ジュラール・ジュネットが『物語のディスクール』(1972年)で提示した「焦点化分析」を用い、ホークスの4曲とライオンズの6曲を分析した。その結果、ホークスもライオンズも九州を本拠とする場合は地域名が歌詞に入れられ、九州以外の場所が本拠地の場合は地域名の使用の頻度が低下することが明らかにされた。

(2) 石村広明(桃山学院大学)/大学体育におけるBASEBALL5の実践について
2017年に世界ソフトボール連盟が発表した新アーバンスポーツで、1チーム5人、5イニング制により行われるBaseball5を対象に、競技の実践が学習者のベースボール型スポーツの技能や戦術・ルール理解などの学習に及ぼす影響を検討した。被験者となったのは大学生26名で、全15回の講義のうち3回でBaseball5が実施された。第1回目と第3回目の実施後に行われた自由記述式アンケートでは対象者に戦術的な能力の高まりが生じたことが推察され、ベースボール型競技としてのBaseball5は打撃に関する戦術的な理解を促し、打球の変化の豊富さから守備にも柔軟な対応が求められることが示唆された。

(3) 田所明憲(高知大学)/野球界におけるセカンドキャリア支援の違い~NPBと高知FDを比較して~
「適切な長期的な活動計画を立てることは選手のパフォーマンスを向上させる」という先行研究の分析に基づき、NPBのフェニックスリーグに参加した選手と独立リーグの高知ファイティングドックスの選手のセカンドキャリアや引退後の進路についての意識を中心に比較した。その結果、独立リーグは資金面の問題もあり十分な支援を行えていない可能性が推察されるとともに、キャリア意識についてはNPBの選手が高知ファイティングドックスの選手に比べて高く、「夢を追い求める場」であるとともに「夢をあきらめる場」でもある独立リーグが十分な環境を整備できていないことが推察された。

(4) 狩野美知夫(野球文化學會)/宇佐美徹也と千葉功にみる記録の見方
山内以九士、千葉功、宇佐美徹也の3人が揃った最高傑作がパ・リーグの『1961年報』であり、大リーグで同程度の水準の内容が揃うのは1974年からであることを考えても日本の球界の記録への取り組みが進歩的であったことが分かる一方、山内の定年退職を契機として報知新聞に移った宇佐美と記録部に残った千葉というように、「記録の神3人」はそれぞれ別の道を歩む。今回の報告では、宇佐美徹也と千葉功の記録に対する態度の違いについて、両者の経歴やメディアとのかかわりをもとに検討が行われた。

第2部シンポジウム「野球と記録」(座長:蛭間豊章[報知新聞社])
(1) 基調講演
芝山幹郎(評論家・翻訳家)/科学と想像力のブレンド

「記憶」と「記録」の関係には「記憶から入り記録で確かめ、記憶に還元する」というあり方と「記録から入り記憶を補強する」というあり方があり、「記録」を科学、「記憶」を想像力に近いものとして考えることが出来る。セイバーメトリクスの基礎を築いたビル・ジェイムズの活動は医学の精密化と軌を一にするものであり、検査を精密化することで病変をより精緻に発見するように、セイバーメトリクスによって野球がより精緻に分析されるようになった。そして、オークランド・アスレティックスがビリー・ビーンの下でビル・ジェイムズの理論を本格的に活用し、球界がセイバーメトリクスを受け入れることになった。大谷翔平はOPSやWARといった現在のセイバーメトリクスの主流となっている項目でも高い数値を残しており、この点からもMVPの受賞は当然のことである。一方、記録を突き詰めると無機質的な分析になりやすいことを考えれば、記録に基づき、データに着想を得て面白いベースボールライティングを行うことが幸せなマリアージュではないか。

(2) 報告(1)
室靖治(読売新聞社)/山内以九士と野球の記録の発展

「記録の神様」と呼ばれた山内以九士の孫である報告者が、山内に関連する資料や旧蔵品などをもとに検討した。そして、松江の呉服商の7代目がいかにして球界に身を投じたかをその来歴と野球の記録とのかかわりを踏まえて明らかにすることで、1942年に公式記録員となり、2リーグ分裂後はパ・リーグ記録部長として活動した山内が記録の面から日本のプロ野球の発展に大きく寄与したこと、さらに私財を投じた取り組みがいかなるものであったかが示された。

(3) 報告(2)
山川誠二(日本野球機構)/時代に即した公式記録員の業務

公式記録員の業務や公認野球規則の変遷が具体的な事例をもとに紹介された。すなわち、記録の解釈はセ・パ両リーグで異なり、2005年の交流戦発足を契機として解釈のすり合わせが行われたこと、野茂英雄投手の渡米を契機として日米の規則の整合性への注目が高まり、2008年の規則改正をもって「無関心時の盗塁は野手の選択による進塁とする」と米国に準拠して改正されたこと、米国の規則では72時間以内であれば記録員による判定の変更が可能であったものの日本では当該箇所を翻訳せず、2014年から記録員がヒット、エラーの判定の変更を行えるように規則に明記されたことなどが説明された。


今年2月に行われた第4回研究大会に引き続きオンライン形式での実施となったものの、50名を超える方が会の内外から参加されたことはありがたく、野球文化の発展という点からも意義深い催事となったと言えるでしょう。

<Executive Summary>
The Forum for Researchers of Baseball Culture the 5th Research Conference (Yusuke Suzumura)

The Forum for Researchers of Baseball Culture (FRBC) held the 5th Research Conference via Zoom on 19th December 2021. In this time 4 research presentations, 1 keynote speech and 2 reports were available.


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