インディアンスから「ガーディアンズ」に改称の背景

去る11月29日(月)、日刊ゲンダイの2021年11月30日号27面に連載「大リーグ通信」の第105回「インディアンスから「ガーディアンズ」に改称の背景」が掲載されました[1]。

今回は、米国内で進む多様性の尊重や人種差別主義の克服と球界の関係を、クリーブランド・インディアンズの愛称の変更から検討しています。

本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。


インディアンスから「ガーディアンズ」に改称の背景
鈴村裕輔

世界大恐慌の直接の契機となった1929年のブラック・サーズデー、米国の財政赤字と貿易赤字の先行きを懸念して起きた1987年のブラック・マンデーと、「ブラック」と名の付く曜日は世界経済と深く関係する。

一方、11月第4金曜日の「ブラック・フライデー」は10月のハロウィンと12月のクリスマスの間を繋ぐとともに、米国におけるクリスマス商戦の幕開けを告げる、重要な1日となっている。

前日の感謝祭は休日で、州によっては11月第4金曜日も休日となっている。家族が団らんし、あるいは一家そろって買い物に出かけるこの日は人々の購買意欲が高まるため各店舗が黒字を記録するとされる。「ブラック・フライデー」は「黒字になる金曜日」の意だ。

コロナ禍が落ち着きを見せている日本でも、消費の促進のために各業界が「ブラック・フライデー」を積極的に宣伝している。ハロウィンが「仮装の日」として定着したように、2016年になって初めて登場した「ブラック・フライデー」も、今後は「安売りの日」として日本で浸透するかもしれない。

だが、ヨーロッパからの入植者が先住民の助けを受けて生活の基盤を整えたことへの返礼として秋の収穫の時期に先住民を招いて行った感謝の祭りに由来するとされる感謝祭は、入植者による先住民への迫害と収奪という米国の歴史と不可分の日でもある。

今年1月に発足したバイデン政権では、内務長官のデブラ・ハーランドが先住民として初の閣僚となったことで、国内外の注目を集めた。

そのハーランドは、今年の感謝祭に先立つ11月20日、カリフォルニア州アルカトラズ島で演説している。

1969年に先住民による権利回復運動の一つとして起きたアルカトラズ島占拠事件の発生から52年を記念する式典で、ハーランドは先住民一人ひとりが出自に誇りをもてる社会を実現することの重要さを強調した。

多様性の尊重や人種差別主義の克服は、球界にとって選手や職員の国籍や人種の多様化によって実現すると思われるかもしれない。

しかし、「先住民への敬意の表れ」という球団側の主張に対して、インディアンズやブレーブスといった愛称が「先住民を侮辱するもの」と批判されることは、依然として先住民を巡る問題への理解に隔たりのあることを示している。

インディアンズが来季から「ガーディアンズ」に改称するのはこうした状況を踏まえたものだし、ハーランドが「好ましい、必要な変化」と発言したことも球界が米国社会の動向と密接にかかわることを示している。

どのようにして多様性を確保し、社会に提示するかは、これからも球界にとって重要な課題であり続けるのである。


[1]鈴村裕輔, インディアンスから「ガーディアンズ」に改称の背景. 日刊ゲンダイ, 2021年11月30日号27面.

<Executive Summary>
The US Diversity Requirement Changes Cleveland Nickname from "Indians" to "Guardians" (Yusuke Suzumura)

My article titled "The US Diversity Requirement Changes Cleveland Nickname from "Indians" to "Guardians"" was run at The Nikkan Gendai on 29th November 2021. Today I introduce the article to the readers of this weblog.


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