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大雨の日には何が起こっているのか?

「このお盆の時期には大雨が降るかもしれない」
名古屋市にある、庄内川河川事務所で勤務する私は、気が気ではない。
大雨が降った場合には、休日であっても対応する必要があるからだ。

実は、お盆の週は実家がある香川県へ帰省する予定であり、帰省に合わせて直島に一泊する予定であった。
直島には何度か行ったことはあるが、妻と行くのは初めて。ここ2か月はこの予定が楽しみで仕事を頑張っていたと言っても過言ではない。
ただ、信頼できる部下職員は名古屋にいることもあり、予定通り休暇をとることとした。

直島の一泊二日の旅はあいにく曇りか小雨。ただ、十分に楽しめた。
昼間は、島に点在するアートや美術館、緑溢れる自然を楽しむ。
曇りがかった空が晴れていればどれだけ美しかっただろうと思いを馳せる。
夜は、静かで真っ暗。虫の音としとしとと降る雨の音が心地よい。
驚くほど深い眠りにつくことができた。

直島から実家のある高松まではフェリーで移動し、昼過ぎに着いた。
両親が迎えに来ており、車で実家まで移動。車中で、母より「今日の夕飯は千万(鉄板ステーキ屋)を予約してるわ。ばあちゃんも含め家族みんなで食事しよか」
 
17時頃、庄内川の上流付近(岐阜県瑞浪市など)で大雨が降り始め、深夜に洪水が発生する可能性が出てきた。
スマホで逐一雨の予報について確認していた私は、すぐに担当の部下職員で電話。
部下職員より「水位が上がる予報ですけど、人数的にもたぶん対応できると思います。課長は、そのままゆっくりしていて良いですよ」
そうは言っているものの、管理職としては、少し不安が残る。高松から今から帰ると22時頃に名古屋につき、23時には事務所に出勤できる。
「分かりました。当面の対応はお願いします。もしかしたら、私も向かうかもしれません」
そう、担当者に伝え、電話を切った。

母から「仕事? まさか帰るん? 任せといたらええんちゃう?」
「いや、管理職として出勤するべきやと思う。申し訳ないけど、今から名古屋に帰るわ」
本来であれば、千万へ向かう車でそのまま高松駅へ。
車中では父や母は「行かんでもえんちゃう? せっかく帰って来たのに」と残念がっていた。

新幹線の車中、牛丼の駅弁を妻と食べる。高級ステーキから駅弁。大きな違いだ。
「もう一泊高松でゆっくりできたのに、ごめんな。」
「仕方ないよ。仕事だもんね」
妻のやさしい言葉に罪悪感が幾分落ち着いた。

名古屋に戻ると大雨。近くに流れる堀川もかなり増水している。
すぐに出勤の準備をし、合羽を着て自転車で事務所に向かう。向かう途中も、排水溝から水が溢れたりしている。嫌な予感だ。

23時頃、事務所に到着。すぐさま3階にある災害対策室に向かう。
所長も含め、10人ほど出勤している。少しバタバタしている状況だ。
「お疲れ様です。まだ水位は上がりきってないですよね。」
「24~1時頃に、岐阜県土岐市の方でピークが来る見込みです。」
担当者からの落ち着いた返事。関係自治体への連絡準備や情報発信の準備を進めている。

24時頃に庄内川の中・上流域の岐阜県区間で、洪水氾濫の危険性が高まったため、所長から関係の市長へ連絡を入れる。
「氾濫の可能性があり、注意が必要です。氾濫の可能性が高まりましたら、また連絡します。」
とりあえず早めに一報を入れる。住民避難を行うにも、避難所の開設など、自治体側の準備が必要だ。

岐阜県土岐市では、1時に氾濫危険水位を超過。氾濫の危険性が高まった。
すぐに沿川自治体に連絡。
河川の状況や氾濫が発生した場合にどこが浸水する可能性があるのかを伝える。住民の避難行動に関係する情報提供を行う。
災害時には、正しい情報があれば、適切な対応ができる。
行政ができる範囲は、「適切な情報提供」までだ。
実際に行動するのは、住民個々人の判断となる。

1時をピークに水位は下がってきた。庄内川からの氾濫は無かった。
防災担当者としてはホッとした。しかし、まだ仕事はある。
洪水後の堤防や護岸の状況確認やダムを含むこれまでの河川事業の効果の検証。災害直後から行う仕事も多々ある。

自治体を含め、防災担当者は、災害時にはこのような対応をしている。休日を切り上げて対応するのは、住民の皆様の命や資産を守りたいという思いから。
しかし、我々行政側ができる範囲は、「適切な情報提供」。そこまでだ。

これから梅雨の時期。また夏明けには、台風シーズンが始まる。
住民の方には、情報を得つつ、「自分の身は自分で守る」ことを念頭に行動することを信じている。
まずは皆さん、身近にあるハザードマップから確認してみてはいかがだろうか。


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