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階段

私が昔実際に体験した話をまとめてみました。
少し長いのですが、短編小説だと思って読んでみてください。

 これは、私が小学生の時に実際に体験した話です。20歳をこえた今でも、あの時の体験は鮮明に思い出すことができる。そんな体験でした。
 私は、物心ついたときから祖母と一緒に暮らしていました。いわゆる「3世代世帯」というやつです。祖父は私が生まれる前に亡くなってしまったらしく、祖父には会ったことがありません。そんな私の家は、家のあちこちの床がギシギシいうような、築年数80年以上のとにかく古い家です。とはいっても、どこにでもあるこれぞ「田舎の家!」という感じの家です。そんな私の家には、1階と2階をつなぐ、これまたどこにでもあるなんの変哲もない階段があるのですが、私は昔からこの階段が嫌いでした。古い家でしたので、階段の勾配は急で幅も狭いのですが、夜になるとその階段がさらに狭くなり、右と左の壁が迫ってきて押し潰されるような、そんな感覚が苦手でした。そして、何故かはわかりませんが、祖母から「家の階段の数は数えちゃだめだよ」とよく言われていました。当時小学生だった私には、何故数えてはいけないのかよくわかりませんでしたが、言いつけを守り、とにかく数えないようにしていました。でもやはり小学生の男子といえばどうしようもないクソガキの中のクソガキです。おばあちゃんの言いつけなんてそう長くは守れません。小学5年生のある夏の日、好奇心を我慢できなくなった私は、階段の数を数えてしまいました。
それは確かに13段でした。
 それから数日たったある夜のことです。私が2階の寝室で寝ていると“ギシッ”と誰かが階段を1段だけ上ってくる音がしました。古い家ですので、家の建材がきしんだり“パキッ”となったりすることはよくありましたが、そんな音ではありませんでした。それは確かに、誰かが階段を1段踏み締める音でした。
特にその夜は、それだけで他に何も起こらず次の日の朝を迎えました。ですが、その日の夜も私が寝室で寝ていると、また“ギシッ”と階段を上ってくる音がしました。3日目の夜も同じです。誰かが“ギシッ”と階段を1段だけ上ってくる音が聞こえ目が覚めます。そして4日目、5日目の夜も、やはりその足音は聞こえてきました。もうお気付きかもしれませんが、毎日階段を上がってくるその“誰か”の足音は、1日1段ずつ階段を上がってくるのです。最初は気のせいかと思いましたが、その足音が日を重ね、4段、5段と徐々に階段を上がってくるにつれ、音が段々と近づいてくるのがわかり、確実に上に一歩ずつ上ってきてるということがわかりました。私自身、そのことに気づいたのは謎の足音が聞こえ始めてから5日目の夜でした。もうその夜からは怖くて眠れるはずなんてありません。布団に入ってからはいつ階段を上る足音が聞こえてくるか、そしてその足音が、階段を13段全て上りきった時にはどうなるのか、部屋に何者かが入って来るのではないか。そんな色んな想像が頭に浮かんで、もう気が気ではありませんでした。しかし、恐怖で震える私の感情とは裏腹に、やはりその夜も足音は聞こえてきました。当時2階の寝室では弟と父と母、そして私の4人が布団を敷き横一列になって寝るクレヨンしんちゃんの野原家スタイルで寝ていました。ですので、もし[階段を上がってくる音の正体は誰か?]となれば、家には私たち家族4人以外には祖母しかいないので、必然的に一階の離れで寝ている祖母しかあり得ませんでした。しかし、「おばあちゃん昨日の夜2階に上がってきた?」と聞いても、行ってないと言われるだけでした。
 そんなことがしばらく続き、ついに13日目の夜。あの日は特に暑く寝苦しい夜で、寝室のドアは全開で扇風機がついていました。そして足音はついに階段を上りきり、私達家族4人が寝る寝室へと続く廊下へと進みだしました。階段を上り切ってから寝室までは5メートルほどあり、誰かが古い木材の廊下を軋ませながら歩く音が、廊下を伝って確実に寝室へと向かってくるのがはっきりとわかりました。そしてその足音は、ついに寝室の前まで来ました。私は恐怖で全身に力が入りガチガチになった首を少し傾け、視線だけをドアの方に向けました。しかし、そこには何もなく、ただ真っ暗な廊下があるだけでした。
ホラー番組やよく見るラジオや本の怖い話だと、そこに女の人が立っていたり、青白い手だけが見えたりするのですが、幸か不幸かほんとに足音以外には何も起こらず、廊下には静寂と闇だけがありました。
 それ以来、今までの出来事が嘘だったかのように、その足音は全く聞こえなくなりました。
後日、私はこのことを父と母、弟に話しましたが、「寝ぼけてただけでしょ」と誰も信じてくれませんでした。しかし、祖母にも同じ話をすると、どうやら13段の階段は「13階段」と呼ばれ、処刑台へ向かう階段の段数と同じだそうで、昔から不吉として忌み嫌われてきたと言うことを教えてくれました。そして何かの間違いで、昔家を建てる時に13段になってしまったそうです。
勝手な推測ですが、私以外に誰も気づかなかったあの足音は、【シュレディンガーの猫】と同じようなもので、祖母から「家の階段の数は数えちゃだめだよ」言われ、それを数えてしまった私だけが「13階段」というものを認識してしまい、認識してしまったことによってあのような出来事を引き起こしたのではないかと思っています。
 今では、当時寝室だったその部屋も、家具やベッド、テレビなどを置き完全に私1人の部屋になっています。ですが、今でも夏の夜になると、当時の記憶が鮮明によみがえります。今となっては、あの足音の正体がなんだったのか知る由もありませんが、あの日以来、寝室のドアを開けたまま寝たことは一度もありません。

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