好きを探す旅

村上龍さんの小説は高校のころから大好きで「13歳のハローワーク」を本屋で見つけたとき、既に焼肉屋のバイトの輝きは消滅し、完全に興味を失っていた私は何もやりたい事がない状態に逆戻りしていました。

やりたい事は見つからないのに、やりたくない事や向いてない事だけが増えていくことに焦りがあったのかは良く覚えていませんが、このままではいけない事は分かっていました。
現状を打開するための何か、を探していたあの時期にこの本と出会ったことが全ての始まり。

これは自分のために書かれた本だと勝手に思って貪るように読みふけりました。
引越しを繰り返す中でどこかへ行ってしまったので読み返せませんが、確か好きな事、これをやっている間は時間を忘れて没頭してしまうような事を仕事にしよう、というのが趣旨だったと思います。色んなスキが目次のように存在していて、その好きを活かせる職種が列挙されているような感じです。

お金を稼ぐことを目的としない仕事観、みたいなもので、この考えは起業に向けて小さな一歩を踏み出すアイデアにも繋がっています。
しかし当時はなにかでビッグになりたい、成り上がりたいという欲望を捨てられず、かといってスポーツや容姿で戦えるような人間ではなかった私は、この本に書かれているほとんどの仕事に興味が持てませんでした。
色々な好きの項目をめくると、好きとはどういった状態なのかが書かれています。
それを読むたびに好きかも、と思っていた事は実はひまつぶしであった、という事を思い知らされ、好きを見つけるのは大変な事で、私には好きな事が無いのではないかと軽く絶望した記憶があります。

いろんな好きを開いては違うことを思い知る日々が続きます。もう自分は好きな事を仕事にするのは無理なんじゃないか、と諦めかけていたとき見つけたのが「メカ・工作が好き」というページでした。
はまのゆかさんが書かれた可愛いイラストの挿絵があり、そこにはドライバーを持ってなにかを組み立てている子供と羨ましそうに後ろから眺めている子供。そして組み立てている子供を写真に収めようとカメラのファインダーを覗き込むお母さんが描かれていました。

その絵を見た瞬間、好きの内容を読む前に「この感じが自分は好きだ」と直感しました。
なんの根拠もない感覚が好きの内容を読んで確信に変わります。

図工の時間になにかを作るのが好きだということ、メカが好きとはプラモデルなんかを組み立てていると時間を忘れてしまうということ。

このような事が書かれていました。
幼い記憶がフラッシュバックしたのを覚えています。記憶の中の私が初めてドライバーを握ったのは幼稚園のころ。
当時はブラウン管のテレビで番組を録音する記憶メディアはVHSと呼ばれるビデオテープでした。
長方形のプラスチックで作られたティッシュペーパーの箱の厚みの半分もない黒いかたまり。
その中に綺麗に巻かれた真っ黒なテープが左右に配置されています。
このビデオテープをバラバラに分解するのが大好きで、一度バラバラにしたらもう再生は出来なくなるのですが、にも関わらず分解しては組み立てるという事を繰り返していました。
何で怒り出すか分からない親でしたが、これは何故か怒られませんでした。

この体験を思い出し、自分で何かを作ることが好きなんだという思いが膨れ上がり、そのままの勢いでページをめくると現れたのが独立時計師という職業でした。
今でこそアカデミーに所属する日本人の独立時計師は二人いますが、当時は日本人は一人もおらず、それも惹かれた理由のひとつです。
おれが日本人初の独立時計師になってやると真剣に思っていました。
このころのバイブルは矢沢永吉さんの書かれた「成り上がり」です。

これは20歳のころに描いた夢を違う形で現実にしようと動き始めた40歳の物語。

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