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合理的配慮の難しさ:社会的障壁となるルールや慣習

障害者差別解消法の改正により、今年2024年4月から、民間事業者(ボランティア団体や個人を含む)にも合理的配慮の提供が義務づけられたことは、皆さんご存知かと思います。
実施にあたっては様々な課題があることが予想され、内閣府は「つなぐ窓口」という相談窓口を設置しています。https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai_tsunagu.html

これから現実に直面するケースを通じて議論を深め、実践していく必要があります。ここでは、ある団体での経験を踏まえ、合理的配慮や環境整備に関する難しさを記録しておきたいと思います。
(なお、これは障害非当事者で、合理的配慮の専門家ではない素人による現時点でのメモです。必要に応じて追記・修正予定です)

下記資料にもありますが、合理的配慮の例として、三つの種類が挙げられています。一つ目が段差への携帯スロープの設置や高い所に陳列された商品を取って渡す等の「物理的環境への配慮」であり、二つ目が手話、筆談や読み上げ等の「意思疎通の配慮」です。これらは具体的にイメージしやすく、比較的合意形成がしやすいかと思います(もちろん実施のための課題もたくさんありますが)。

しかしそれらに留まらず、合理的配慮の三つ目として「ルール・慣行の柔軟な変更」が挙げられていることは、それほど知られていないのではないでしょうか。私も合理的配慮の担当となって初めて意識したところがあります。そして、この 「ルール・慣行の柔軟な変更」 に、前の二つ以上に大きな難しさがあると感じています。その理由は、ルール・慣行は集合的なものであり、また、一度変更すると後々へも影響を与えるため、合理的配慮として主に想定される「個別の状況」への対応と馴染まないと見なされがちだからです。こうした難しさがあるからこそ、合理的配慮としてこの「ルール・慣行の柔軟な変更」をはっきりと意識しておくことが、とても重要なのだと思います。

ご存知の通り、そもそも合理的配慮は、単にその場その場で対応すればよいというものではなく「社会的障壁」を除去するためになされるものです。では、社会的障壁とはなんでしょうか?

これも私自身全く意識できていなかったのですが、当初は階段や段差、あるいはコミュニケーションの壁といったものを想像していたように思います。障害者差別解消法での定義をみてみると、社会的障壁は「障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のもの」とされています。つまり、わかりやすく障壁だと認識されるものだけではなく、社会や組織でのルール・慣行や、それを支える常識・考え方といった、あまりにも当たり前になっているもののも障壁となりえます。

言い換えると、一点目の携帯スロープ等の準備(物理的環境への配慮)や、二点目の手話や読み上げ等の対応(意思疎通の配慮)等は非常に重要ですが、それだけでは必ずしも社会的障壁が除去されるわけではないということを、事業者は認識する必要があるということですね。また、個別の対応に馴染まないからこそ、ルールや慣行、考え方を含む環境の整備をあらかじ行っておかなければならないと言えます。

しかし、「事物・制度」に加え「慣行・観念その他一切のもの」を含む社会的障壁は、まさしく、無意識のバイアスやマジョリティの特権など、これまで指摘されてきた問題と直結しています。このことが事業者と当事者、あるいは事業者内部の合意形成を難しくしているように思います。さらに単に合意が形成できないだけではなく、思わぬすれ違いから対立に発展してしまいかねません。

ここまで見てきたことからもわかるように、合理的配慮に関する相談を受けたとき、あるいは当事者参画を促進したいと思うとき、事業運営者には、社会的障壁についての自身と当事者との認識のずれも含めて、一度立ち止まって考え、対話していく責任があります。しかし、繰り返しになりますが、ルールや慣行、それらを支える観念は組織や団体においてすでに当たり前の前提となっており、問うこと自体が難しいものも含まれます。だからこそ、そうした前提から一つ一つ検討していかなければマジョリティ中心に形成された社会や制度、組織における社会的障壁を除去することは不可能ではないでしょうか。

現在合理的配慮の提供が義務づけられているのは「障害のある人」に対してであり、そのための措置が急務となっています。加えて、「障害」に限らず、より多様な人々の社会的障壁の除去について考え、実践していくことが求められています。私自身、まだまだ勉強・経験不足のため、改めて自分の立場性含めて検討していきたいと思います。


以下、関連リンクです
・マジョリティとは「気にせずにすむ人々」ーー #ふれる社会学 のイベントから

・出口 真紀子:マジョリティの特権を可視化する ~差別を自分ごととしてとらえるために~

・こここスタディ vol.18 「合理的配慮」は「ずるい」「わがまま」なのか? インクルージョン研究者 野口晃菜さんによる解説

・男女共同参画学協会連絡会「無意識のバイアスコーナー」


以下、合理的配慮関連の参考資料です

●障害者差別解消法とは
(政府広報オンラインより)
障害者差別解消法は、平成25年(2013年)6月に障害を理由とする差別の解消を推進することを目的として制定されました。この法律では、行政機関や事業者に対して、障害のある人への障害を理由とする「不当な差別的取扱い」を禁止するとともに、障害のある人から申出があった場合に、負担が重すぎない範囲で障害者の求めに応じ合理的配慮をするものとしています。
なお、ここでいう「障害者」とは、障害者手帳を持っている人だけではありません。身体障害のある人、知的障害のある人、精神障害のある人(発達障害や高次脳機能障害のある人も含まれます。)、そのほか心や体のはたらきに障害のある人で、障害や社会の中にあるバリアによって、継続的に日常生活や社会生活に相当な制限を受けている全ての人が対象となります。
また、「事業者」とは、企業や団体、店舗のことであり、目的の営利・非営利、個人・法人を問わず、同じサービスなどを反復継続する意思をもって行う者をいいます。個人事業主やボランティア活動をするグループも「事業者」に含まれます。

・障害者差別解消法:法は(...)障害者に対する不当な差別的取扱い及び合理的配慮の不提供を差別と規定し、行政機関等及び事業者に対し、差別の解消に向けた具体的取組を求める
「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai/kihonhoushin/honbun.html

・合理的配慮:合理的配慮とは、障害のある方が日常生活や社会生活で受けるさまざまな制限をもたらす原因となる社会的障壁を取り除くために、障害のある方に対し、個別の状況に応じて行われる配慮をいいます。
「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律についてのよくあるご質問と回答」
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/law_h25-65_qa_kokumin.html

・社会的障壁:障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。
「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/law_h25-65.html

●合理的配慮の具体例
現時点における一例としては、

・車椅子利用者のために段差に携帯スロープを渡す、高い所に陳列された商品を取って渡すなどの物理的環境への配慮
・筆談、読み上げ、手話などによるコミュニケーション、分かりやすい表現を使って説明をするなどの意思疎通の配慮
・障害の特性に応じた休憩時間の調整などのルール・慣行の柔軟な変更

などが挙げられる。合理的配慮の提供に当たっては、障害者の性別、年齢、状態等に配慮するものとする。
「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai/kihonhoushin/honbun.html

●環境整備の必要性
合理的配慮を必要とする障害者が多数見込まれる場合、障害者との関係性が長期にわたる場合等には、その都度の合理的配慮の提供ではなく、(…)環境の整備を考慮に入れる

「障害者差別解消法基本方針」https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/h27hakusho/zenbun/h1_01_02_02.html


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