弟子屈(てしかが)町の観光の選択肢のひとつに。形を変えて歴史を紡いできた、多くの人に愛され続ける大衆食堂
「弟子屈町へ来られるお客様の、観光地としての選択肢のひとつになってくれたら嬉しい」
そう話すのは、北海道の東・弟子屈(てしかが)町の中心街にお店を構え、多くの人に愛され続けている食堂「食堂と喫茶 popppotei」
(以下、poppotei)。
1番人気の「摩周の豚丼」をはじめ、何度かテレビにも取り上げられたことがある「雪見ラーメン」など、ここでしか味わえないグルメが揃う名店です。
今回、そんなpoppotei店長の菅原さんに、poppoteiの歴史やお店への想い、そして弟子屈町の魅力などを余すところなく聞いてきました。
夏に北海道、特に道東エリアへ旅行を検討している方はぜひ、読んでもらいたい記事です。
結婚をきっかけにpoppoteiを継ぐことを決意
実はまさか自分が飲食店を経営することになるとは、小さい頃にはまったく思っていなかったんです。
小さい頃からやりたいことも特になくて。高校卒業と同時に、生まれ故郷の留萌(るもい)市を出て、札幌へ引っ越しました。
札幌へ行ってからは、お恥ずかしながら遊び呆けていましたね(笑)。遊びながらも、途中で大学へも入学しました。でもお金がなかったので、遊びながらしっかりアルバイトもしていたんですよ。アルバイトの経験は、実は結構豊富です。札幌にあるレストランや、お寿司屋さんのアルバイトをしていました。
あとは昔からテレビゲームが大好きだったので、ゲーム会社で発売前のゲームを、不具合がないかチェックするアルバイトなんかもしました。ゲームをするだけでお金を貰えるんだから、とっても楽しかったのを覚えています(笑)。
そんな感じで、とにかくふらふらとしていて。実は就職活動も全くしていないんですよね。
大学卒業後、どうしようって考えたときに、やっぱり好きなことを仕事にしたいなと思いました。
自分がずっと好きだったのは、テレビゲームとコーヒー。特にコーヒーは本当に好きで、昔からよく飲んでいましたね。1日に数軒カフェをはしごしていろんなコーヒーを飲み歩くくらい大好きでした(笑)。
コーヒーが好きだったという単純な理由から、大学卒業後には札幌市内の珈琲専門店で働き始めました。最初はアルバイトとして働かせてもらい、その後正社員にしてもらって、合計3年ほど珈琲専門店で働いていました。
そのなかで、ずっとお付き合いしている女性と結婚することになりました。相手の女性が弟子屈出身で、そのご両親が営んでいたのが今のpoppoteiなんです。
結婚を機に、相手のご両親にお店を継いで欲しいと言われまして。自分としても、断る理由も無かったので、2つ返事で「やります」と言って弟子屈に移住して、そこからはずっとpoppoteiで働いています。
poppoteiの名前の由来とは
実はもともと、poppoteiは「貴久屋食堂」という名前で、別の場所で営業をされていたんです。
駅前に移転したのが2003年。目の前には線路があって、電車が入っていたので、汽車ポッポからちなんで、ぽっぽ〜っていう、小さい子どもでも呼びやすい部分を取って、お店の名前に「ぽっぽ」って付けたそうです。あとなんか、ぽっぽ亭って言葉の温かみがあるじゃないですか(笑)。
その後、2018年にお店の大幅リニューアルを行いました。リニューアル時に店内のレイアウトやお店の外見をガラッと変えたほか、お店のメニューなども少し改良しましたね。店内の装飾も、一つひとつこだわったのと、お店のコンセプトも少しだけ手を加えました。
あとは食事のメニューを減らして数をしぼったり、こだわりのコーヒーをメニューに加えたりと、カフェ要素も追加しましたね。以前珈琲専門店で働いていたので、そのときに学んだ知識を活かして淹れたての美味しいコーヒーを提供できるようになりました。
お店のリニューアル時、お店の名前も「お食事処 ぽっぽ亭」から「食堂と喫茶 poppotei」へと名称変更しました。
お店に喫茶要素が追加され、内装もよりおしゃれにリニューアルされたことで、若いお客様が増えたんですよね。リニューアルしてカフェのようになった結果、お店に入りづらくなった常連のお客様も、もしかしたらいるかもしれません。
でも、僕らの想いとしてはやっぱり、poppoteiはカフェではなく食堂なんですよ。いつだって、美味しい定食やランチを提供したい。その想いは変わっていません。
お客様の層は多様化しましたが、以前から足を運んでくれているお客様にももちろん足を運んでいただきたいですね。実際に、リニューアル後も来てくださっているので、嬉しい限りです。
コロナが、働き方を見直すよいきっかけに
2018年にお店を大幅にリニューアルしてから、ありがたいことにだんだんお店に来て頂けるお客様の数も増えていって。
それに伴って、お店の売上も右肩上がりで推移していきました。でも当然ですが、その分僕ら従業員の働く時間が増えていって。
poppoteiは外部からアルバイトや社員さんを雇っているわけではなく、すべて自分たちの家族や妻でお店を切り盛りしているんです。だからどうしても人手が足りず、みんなどこか身体に負担がかかっているのを承知で、無理をしながら働いていたんです。
そんなときに、世界を激震させたコロナが到来します。コロナを機に、一気にお客様の数が減ってしまって。僕らも売上が減って大変だったのですが、時間と心の余白ができたことで、自分たちの働き方を見つめ直すいい時間になりました。良くも悪くもコロナがきっかけというか。
コロナ前までは、必死に働くことばかり考えて、子どもとの時間もあまり取れない日もあって。どうしても売上を意識してしまうというか。お店を経営するうえで売上は大切なんですが、数字ばっかり意識していた自分がいました。
コロナ禍で売上が大幅に減ってしまったときに、苦肉の策としてお弁当を作って安く販売していたんですよね。そしたら、地元や近所の人がお弁当を買いに来てくれて。
「大変だけど頑張ってね」と、優しい声を掛けてくれることもありました。
その後、コロナが落ち着いたときに、お弁当を購入してくれた地元や近所の方が、お店にも来てくれるようになったんです。
観光客の数も少しずつ元に戻ってくるにつれて、また売上が安定していきました。でも、売上以上に、改めてお客様が来てくれることに大きな喜びを感じました。お客様が満足して帰っていく様子を見て、とっても嬉しかったですね。
売上やお客様の数を意識するのも、もちろんとても大切ですが、それ以上に目の前のお客様に満足して帰ってもらう。そして、目の前のお客様に感謝しようと、コロナ禍を機に改めて強く意識させられましたね。
独自開発した「雪見ラーメン」が大ヒット
poppoteiのイチオシメニューは、摩周名物「摩周の豚丼」です。
「摩周の豚丼」は駅弁としても販売しているんですが、驚くことに、2005年には京王百貨店が毎年開催する「元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」にて第2位を受賞したんですよ。
当時は僕はまだpoppoteiに携わる前だったのですが、聞いたところによると2週間でおよそ1万3千個ほど売れたらしくて。
すごい数ですよね(笑)。
そして実は、2番目に人気の「雪見ラーメン」も本当に絶品でおすすめなんですよ。
雪見ラーメンは呉汁好きな父親が、呉汁をもとに何か商品開発をできないか、と思ったらしいんですよね。
それで、お店でも人気のある自慢の味噌ラーメンのスープに呉汁を合わせてみたら絶品だったんです。みんなで試食をした後、町内の渡辺体験牧場さんの「牛のおっぱいミルク」を入れ改良をし、「これは美味いぞ」となりましたね。
あまりの美味しさに、次の日から早速お店で提供し始めました(笑)。
メニューとして提供し始めると、飛ぶように売れたんです! 真っ白な見た目と味の美味しさが話題となり、いくつかメディアやテレビにも出させてもらいました。それを見て、全国からお客様が来てくれるようになったりもしましたね。
本当にありがたいことに、今でも摩周の豚丼や雪見ラーメンを求めて、全国各地からお客様が来てくださっています。感謝の一言しかないですね。
弟子屈町の、観光の選択肢のひとつになれれば、それだけで嬉しい
実は、poppoteiは今年、2023年で創立30周年になる節目の年なんです。弟子屈町でずっとお客様にお世話になってきたからこそ、弟子屈になにかを還元できたらいいな、という想いがあります。
弟子屈町って、まだまだ名前も知らなければ、読めない人も多いと思うんです。でも町内には、日本を代表する観光地である摩周湖や硫黄山、屈斜路(くっしゃろ)湖などがあります。
そういった観光地を求めて旅行をしに来た人にとって、poppoteiは1つの選択肢であればいいなと思っています。
やっぱり、弟子屈町でずっとお店をやっているからこそ、少しでも弟子屈町を盛り上げていきたいし、貢献していきたい。
あとはやっぱり、poppoteiを残していきたいし、歴史をつむいでいきたいですね。
嬉しいことに自分の子どもたちは将来、「poppoteiをやりたい!」って言ってくれているんです。でも、今すぐ手伝って欲しいとか、継いで欲しいとかは一切思いません。
いろんな場所を旅して、いろんな経験をして、いつかまたpoppoteiに戻ってきてくれたら嬉しいなと、そう思っています。
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