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IT×お化け屋敷のギミックを実現する技術について

2024年10月20日(日)に開催された名古屋文理大学 大学祭「稲友祭」にて、アプリ開発プロジェクトの学生と教員で、IT×お化け屋敷「作品展示会」を開催した。

本イベントは、ITでお化け屋敷を実現することを目的としており、一般的に人が驚かせるお化け屋敷とは異なり、アプリやセンサ、映像等の「ギミック」が自動的に動作して驚かせるという、驚かせ役がいない完全無人のお化け屋敷である(安全のための見張り役とギミックの動作を見守るスタッフは常駐している)。

ITでお化け屋敷を実現することは、2022年に岐阜県大垣市で開催されたIT×お化け屋敷「怨の家」が先例として挙げられる(本イベントにも、「怨の家」でプロデューサー、総合ディレクター、アートディレクターを務めた3名が参加している)。

本記事では、IT×お化け屋敷「作品展示会」のギミックの技術に焦点をあてて、解説していきたい。
本イベントのアーカイブ動画は下記となるので、技術解説のまえに見ていただきたい。

お化け屋敷全景

1. ギミック全体の技術

ギミック全体の技術を俯瞰した図を下記に示す。

ギミック全体像

まず、各ギミックとサーバ、アプリをネットワークでつなぐために、ルータを設置した。大学のネットワークは、接続のためにWebブラウザでの認証が必要になるため、ギミックに使用しているマイコン「ESP32」が接続できないためだ。
各ギミックはクリア時に、このローカルネットワークを利用して、HTTP通信のGETリクエストを使って、フラグ管理サーバにクリアフラグを送信する。HTTP通信を使用しているのは、複雑なペアリングが必要せず、ロバスト性が高いためである。本イベントはアテンドスタッフが存在しないため、通信不良によるイベント進行不能は最も避けるべき事象と考えた。

フラグ管理サーバは、PHP(Slim)で実装した。フラグの保存は、JSONファイルをサーバに保存する形で行っている。JSONファイルにすることで、イベント進行中に黒子役がフラグをすぐに確認し、トラブル発生時にフラグを修正することができる。

2. アプリ

アプリは、Swiftで実装した。

開発に使用しているXcodeの画面

SNSを模したインターフェイスで、ストーリーを展開しつつ、参加者が次に何をしたら良いかを示す進行の役割も担っている。

アプリ内での進行を管理するため、シーンという単位を定義し、シーン管理クラスがサーバのフラグ状態に合わせてシーンを切り替える(ゲームを実装する際のデザインパターンである「タスクシステム」を参考にしている)。シーンの基底クラスには、シーン開始時と終了時に呼ばれるデリゲートメソッドを定義しており、派生クラスがオーバライドして使用する。

ホーム画面

また、終盤においては、エンディング演出も行う。
終盤の入力内容によって、エンディングが3つに分岐する(アーカイブ動画を参照のこと)。

3. 誘導灯

各ギミックには、誘導灯が設置されており、次にクリアするギミックの誘導灯が点灯するようになっている。
誘導灯には、100均で売っている卓上ライトを利用した。卓上ライトの基板からケーブルを取り外し、ESP32とMOSFETにより点灯制御を行った(電源アダプタは5V/2Aを使用)。
アプリからのOSC(OpenSound Control)によって、点灯タイミングとON/OFFを制御している。

誘導灯のための基板

4. 消えた学生証

机の上の文字化けしている学生証を、アプリのカメラを通してみることで、主人公の名前を見ることができるAR技術を用いたギミック。
ARKitを用いて実装した。

主人公の学生証デザイン
主人公の名前はトゥルーエンドでも確認することができる

5. バグだらけのゲーム

オリジナルのゲームコントローラーを用いたゲーム。
ゲームはUnityで制作した。
コントローラーは、レーザーカッターでナイフを模した形を作り、内部に加速度センサを取り付けた。マイコンはHID(Human Interface Device)機能を持つArduino Pro Microを使用し、加速度センサが閾値を超えた場合に、PCに対してスペースキーを入力する。Unityのキーイベントによって、スペースキーを受け取るようにした。
途中で出てくる写真は、一眼レフカメラで撮影したものをAdobe Photoshopでレタッチしている。

制作中のコントローラー

6. すりガラス越しの主幹

志茂 浩和氏の考案したSSF(Shimo Style Fantasmagoria)の簡易版を目指して制作した。
まず、大きなガラスに半透明のフィルムを貼り、フィルム越しに撮影を行う。次にフィルムに対して、撮影した映像をリアプロジェクションする。

撮影素材
撮影の裏側

プロジェクションには、MadMapperを使用している。MadMapperの制御は、ProcessingとmacOS上で画像を転送するプロトコルであるSyphonを使用している。動画の再生タイミングは、アプリからProcessingへOSC(OpenSound Control)を送信している。

7. 未完成なポスター

机の上にポスターが置かれており、ポスターの一部がアプリに表示される。アプリに表示されている画像がポスターに重なるように置くことで、動画が再生される。
同じ画像と重なるように置くことで、動画が再生される技術は、筆者のオリジナル技術で「OKUTRANS(オクトランス)」と呼んでいる。
Ogaki Mini Maker Faire 2024でも派生作品を展示し、岐阜新聞にも写真が掲載された。

おわりに

全ギミックのプログラムは、Githubにて公開している。

IT×お化け屋敷のギミック設計は、インターフェイス、インタラクションを考える上で、良い教材だと考えている。
お化け屋敷では「恐怖」を演出するために、フレイバーとなる小道具を多様するが、ゲームと異なり、リアルではどの道具が触って良いものか悪いものかが判断つかない。加えて、アテンド役がいないため、進行の動線もアフォード(afford)する必要がある。

恐怖演出では、人が驚かせる一般的なお化け屋敷と異なり、ITを用いた場合はタイミングや演出の強弱を調整することができないため、インタラクションを工夫する必要がある。特に大きな音で驚かせるジャンプスケア(jumpscare)を多用すると、全体的に単調になってしまったり、今回のように手にタブレットを持っている状態では驚いて落としてしまうことがあるので、注意が必要である。

引き続き、ITによる恐怖演出について研究・検証していきたい。

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