Shun-ichi Kaizawa

平成27年度・28年度NHK全国短歌大会近藤芳美賞選者賞(馬場あき子選)/第39回かり…

Shun-ichi Kaizawa

平成27年度・28年度NHK全国短歌大会近藤芳美賞選者賞(馬場あき子選)/第39回かりん賞(2019) 2023年より「かりん」編集委員を務めています。こちらでは個人の活動について発信を行います。

最近の記事

【レビュー】小俵鱚太『レテ/移動祝祭日』(書肆侃侃房)

「力を抜くこと」と、「力を入れないこと」は似ているけれど全く別物で、ストレッチの際はこのふたつがすごく重要だと、どこかで読んだことがある気がする。歌を詠むときもまた、程よく「力を抜いて」歌うこと、余計な「力を入れないで」歌うこと、はむずかしくも両立するべきものなのだと思う。簡単にできたら苦労はしないんだけどなあ、とため息をつく。 こういう歌の力の抜け具合がすごくいい。夏は誰にとっても特別な夏で、「明朗」の「朗」の字を持つ人と飲んだその一日も、もう二度と戻らない、たった一度き

    • 〈複製技術〉時代の短歌(「かりん」2021年7月号)

       思想家ヴァルター・ベンヤミンが、その名論「複製技術時代の芸術」において、台頭する映画や写真といった複製技術が二十世紀の芸術に及ぼす影響を論じ、芸術の大衆化に対する危機感を著したのは、一九三六年のことであった。〈複製〉による大量生産・大量消費の始まりは、十五世紀のグーテンベルクによる活版印刷術の発明に端を発しているが、そのときの〈複製技術〉は書物の〈複製〉という極めて限定された用途を持っていた。ベンヤミンが映画や写真という進歩した〈複製技術〉を論じてから九十年近くがたち、いま

      • 【レビュー】丸地卓也『フイルム』(角川書店)

        「かりん」に入会してからほとんど間近で見てきた丸地卓也さんの作品が、ついに一冊の本になりました。一冊の歌集が出来ていく過程をほぼ生で見てきたとも言えるので、感慨もひとしおです。 改めて歌集として丸地さんの作品を読んでみると、まず思い至るのはその生真面目さ。僕はかつて、かりんの若手特集の中で丸地さんの歌を、生真面目であるがゆえに「処方箋的」であると書きました。これは丸地さんの生業である医療や福祉の分野を踏まえた比喩的な表現ですが、ここでいう「真面目」とは、物事を四角四面に考え

        • 【レビュー】川口慈子『Heel』(短歌研究社)

          『Heel』の特徴はこの一首に結実していると思います。どの歌も〈崖っぷち〉ではないけれど、どこかうつむきかげんであり、大手を振って上を「見上げて」いるような歌が少ない。「上を向いて歩こう」ではないけれど、いつも何かを深く考えながら(時には「考えすぎ」ながら)、作者は恐ろしく冷静に現実を見つめています。(そして意外と、考えながら何かを「食べて」いる歌が多い。モズクや、きしめん、一人焼肉、カロリーメイトなんかも……。これも、物事を冷静に考えるときに必要なことなのでしょうか) 〈

        【レビュー】小俵鱚太『レテ/移動祝祭日』(書肆侃侃房)

          【レビュー】大松達知『ばんじろう』(六花書林)

          先にかりんの先輩・丸地卓也さんのブログでもレビュー(https://fuyuubutu.blogspot.com/2024/02/blog-post.html)があった大松達知さんの歌集。収録歌数は五百首を超えておりとても気合の入った一冊という印象でした。僕は大松さんと同じ英語の教員なので、大松さんの歌集は「ことば」に触れるときの誠実さや、ある意味生徒と同じような好奇心に満ちた目線にすごく注目して読んでいます。 「トング」が本当は複数形なのは、(雑に言うと)「パンツ」が複数

          【レビュー】大松達知『ばんじろう』(六花書林)

          【レビュー】富田睦子『声は霧雨』(砂子屋書房)

          昔から何かとお世話になりっぱなしの、富田睦子さんの第3歌集。直近ではNHK全国短歌大会の予選選者でご一緒させていただきました。 今回の歌集で色濃く現れているのは、思春期の娘さんに向き合っている母親の顔。僕も教員としてこの世代の子どもたちには常日頃から接しているわけですが、より近いところで、しかもたったひとりの娘さんの心や身体と真摯に向き合っている歌を読むと、身につまされるものがあります。自分が同じくらいの年代だった頃のことを、ふと思い出してしまったり、そんな複雑な心境にもな

          【レビュー】富田睦子『声は霧雨』(砂子屋書房)

          【レビュー】佐藤博之『残照の港』(ながらみ書房)

          ※本来は正字で表記される歌集ですが、記事内では新字に統一しています。 同郷であり野球ファンでもあり、また古くからのフォロワーでもあり、何かとお世話になっている佐藤博之さんの第一歌集が出ました。心の花に所属する佐藤さんは、文語・旧仮名・正字にこだわる硬派な抒情の持ち主ですが、歌集として歌をまとめて読んでみると、その硬質さの中に時折混じる柔らかさも魅力的でした。短い章立てがないので一首一首をある程度独立して読みながら、ゆるやかに歌がつながっている感じも工夫されています。 歌と

          【レビュー】佐藤博之『残照の港』(ながらみ書房)

          【レビュー】光野律子『ミントコンディション』(角川書店)

          光野さんはかりんの東京歌会をもう何年もご一緒している先輩ですが、興味・関心の領域がなんとなく僕と近いような気がしています。文学や映画、音楽、絵画、宗教といったモチーフが歌集の随所に散りばめられていて、一筋縄ではいかない印象。歌集で重要なテーマになっている「コロナ禍」や、それ以外の一般的な題材にも、知的なフィルター処理が巧みにかかっていて、ものの見方や考え方に現代的な知性が溢れています。 もっとも、中には常識的な理解に収まる作品もありますが(ある程度編年体が意識されているので

          【レビュー】光野律子『ミントコンディション』(角川書店)

          【レビュー】岡野大嗣『うれしい近況』(太田出版)

          昨年の5月に発表した「ジングル」(橋爪志保、なべとびすこ、志賀玲太、貝澤による短歌同人)の創刊号で、岡野大嗣さんの作品を論じる文章を書きました。「ジングル」は短歌にあまりなじみのない読者の方も想定して作った本でしたが、そうした読者がこれから短歌に触れると考えたときに、やはり一番手に取りやすい歌人が岡野さんだと思ったからでした。 その論では、(細かいことは「ジングル」を読んでいただけるとうれしいですが)岡野さんのデビュー作である『サイレンと犀』には〈死〉のモチーフが頻出するこ

          【レビュー】岡野大嗣『うれしい近況』(太田出版)

          【レビュー】正岡豊『白い箱』(現代短歌社)

          正岡豊さんの歌に初めて出会ったのは、まだ高校生のころ。出会った、と言っても当時は入手困難だった『四月の魚』(現在は「現代短歌クラシックス」で復刻版が出ている)を読んだわけではなく、ある入門書に掲載されていたこの作品に、ただただ衝撃を受けたという出会いでした。 当時も今もうまく説明できないんですけど、この歌にすごく悪魔的な魅力を感じたのをよく覚えています。あるいは寓話的とも言えるような、少し幼い世界のなかで、純粋な〈ぼく〉の存在だけがただただ美しい。初句七音や結句の句またがり

          【レビュー】正岡豊『白い箱』(現代短歌社)

          2023年の活動まとめ

          2023年の短歌の活動をまとめました。2024年は、更新していなかったこのnoteを復活させるとともに、活動もより幅広く、飛躍の年にしていきたいです。2024年もどうぞよろしくお願いいたします。 ⭐︎2023年の活動まとめ 1月 「TANKANESS」に歌会記事「おとなになったポケモンマスターへ〜ポケモン歌会SV編〜」を掲載 『短歌往来』1月号に「ゴドーをあきらめて」12首を寄稿 「かりん」1月号時評 2月 「かりん」2月号時評 3月 「かりん」3月号時評 4月 角

          2023年の活動まとめ

          フェイク(50首) 第三回笹井宏之賞応募作品

          先日発売された短歌ムック「ねむらない樹-vol.6」に、第三回笹井宏之賞応募作の10首抜粋が掲載されました。選考委員、ならびに関係者の皆さま、ありがとうございました。 これまで新人賞の応募作公開はほとんど行っていませんでしたが、この作品は自分でもいい意味で「あまり作りこまれていない」作品であり、そういう意味で以前の投稿時代の歌のように気軽に読んでもらいたいなと思ったので、noteにて全50首を公開します。お読みになられた方、感想などいただけると今後の励みになります。よろしく

          フェイク(50首) 第三回笹井宏之賞応募作品

          食をうたうー『異国』Vol.3

          ーーさて、どうしたものか、と思う。 「食」は短歌だけでなく、あらゆる文芸における重要なテーマだ。現代社会における生活と密接に結びついているという部分が大きいだろう。芸能人やレポーター、グルメ記者等は味を詩的に表現することが求められている。多くの作家が「食」をテーマにするエッセイやルポルタージュを書いてきたし、それらはすべからく「文化」や「民族」といった難しい問題を問いかけてくるものであった。 ところがどうだろう、僕は「食」を表現するということにあまり興味がない(というか、

          食をうたうー『異国』Vol.3

          言語をうたうー『異国』vol.2

           ポルトガル語が話されている国々には太陽が良く似合います。リスボン、リオデジャネイロ、サルヴァドールの街並みと海岸の夕陽はあまりにも美しい。(…中略)南米大陸のブラジル、アフリカ大陸のアンゴラやモザンビーク、大西洋、インド洋や太平洋の島々でポルトガル語が話されたり公用語になっているのは、ポルトガルの海外発展の結果です。  …ポルトガル語が定着したといいましても、世界のポルトガル語圏の人々が同じ発音で同じ語順のポルトガル語を正確に話しているのではありません。(中略)人間の声帯

          言語をうたうー『異国』vol.2

          異国をうたう、それぞれ

          7月~8月にかけて、二つの短歌企画に参加した。結社の先輩である上條素山さんが中心となった、映画『タゴール・ソングス』応援企画短歌ネプリと、『あおなじみ』でもお世話になっている鈴木智子さんがTwitter上で呼びかけていた短歌同人『異国』である。小さいころから外国に人一倍あこがれが強かった僕にとって、どちらもとても興味深い企画だった。 ーーーーーーーーー 以下の作品は『タゴール・ソングス』応援企画からの引用。 故郷の言葉はひとつの声となり「ひとりで進め」とくりかへす夜/寺

          異国をうたう、それぞれ

          「かりん」2020年5月特集号を読む【番外編】若手座談会風レポート(後半戦)

          ※前半戦は6/11投稿の記事をご覧ください。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 【碧野みちる:10首目】   薬効が切れ卒倒するわたくしの此処がロボットプラネットユートピア 郡司:初読のときは深く鑑賞できそうだったけれど、調べたら「ロボットプラネットユートピア」の元ネタは音楽ゲーム(CHUNITHM)の楽曲名だと知って、どう解釈すればいいか分からなくなった。音ゲーしすぎて倒れちゃったのかな? 碧野:自作解説はよくないかもだけど、これは、私がゲーセンのアーケード

          「かりん」2020年5月特集号を読む【番外編】若手座談会風レポート(後半戦)