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フットボール 観戦記

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#横浜

2024年J1第8節 横浜FM vs 湘南

 晴れ渡る空。陽光を受け、緑色に輝くピッチ。温もりを帯びた春の風が頬に触れる。  至福の瞬間。それは美しくもあり、音楽的でもある。環境がベースだとすれば、観客が発する声援や打ち鳴らされる太鼓の音色はギターか。水紋のように広がる青と緑。この舞台はいつも、僕の五感を刺激する。 横浜FM 2-2 湘南

Jリーグ 観戦記|乱れなき大波|2023年J1第2節 横浜FM vs 浦和

 肌が寒気を覚えている。今年もJリーグが始まった。鈍色の空の下、サッカーが脈を打つように繰り広げられる。  この日の主役はマリノスだった。即時奪回。この言葉が似合う。喜田拓也が動く。その位置取りによって味方の選択肢が増える。浦和の手の届かない場所に。プレスが空砲に終わり、ロングボールの回収もままならない。  素早い横移動に縦への動きを織り交ぜた攻撃。それは選手に自由をもたらし、ボールを受ける空間と時間を生み出す。大半の選手たちをピッチの一方に寄せて、広大なキャンバスがそこ

Jリーグ 観戦記|前向きな循環|2022年J1第33節 横浜FM vs 浦和

 秋晴れの空から差す陽光が観客席を照らす。線香花火の瞬きのように、その表面が輝きを放つ。その青は彼方へと伸びる大海のようだ。日産スタジアム。この場所の壮大さに触れると、日々生まれるよどみのようなものも洗い流されるような気がする。    マリノスのサッカーは真水のようだ。体内の細胞を活性化させるほど冷たく、口へと運ぶ手も止まらない。眼にも鮮やかな青はその魅力を具現化している。水沼が作り出す幅が活路を開き、その上を喜田が闊歩する。十一人が一つとなり、構造体を織り成す。その姿は常に

Jリーグ 観戦記|等々力劇場|2022年J1第24節 川崎F vs 横浜FM

 感動した。涙がこぼれた。余計な言葉はいらない。感情の力を再認識させられた。人々の気持ちが一つになると、果てしない力を生むということを。試合展開に合わせて、移ろう拍手の音響。その一拍にも物語がある。四方八方から迫りくる響き。サラウンドとはまさにこのこと。  美しい試合だった。観客の視線を掴んで離さない。そんな力が九十分もの間、観客席に降り続いた。一面の美しい青に染まった等々力。青と青の対決はJリーグにおける最高峰の戦いと言っても過言ではない。  互いが互いの時間を奪い合う

Jリーグ 観戦記|サッカーの弾力|2021年J1第21節 横浜FC vs 川崎F

 ニッパツはサッカーと僕との間にある距離を縮めてくれる。ピッチからほとばしるみずみずしさが毛穴から体内へと吸収される。光り輝く空気に染められ、緑色の舞台は浮かび上がる。  家長は磁石のようだ。強靭な肉体は相手を引き寄せる。機を見て右から中央、中央から左へと流れ、梃子のように攻撃の起点を作り続ける。人とボールの掌握。それはサッカーの原理だ。不純が取り払われた環境で見る家長のプレーは至福の時間と表現できる。  気のせいだろうか。ニッパツのピッチは狭く感じる。その中で横浜FCは

Jリーグ 観戦記|想像を超えること|2021年J1第15節 川崎F vs 横浜FC

 一週間。時間が過ぎる。その中で生まれる心の凹凸。等々力は、その上空は、観客が身につける青いユニフォームはその凹凸を均一にしてくれる。  ハイライン。緊密な中盤。横浜FCの挑戦が始まる。川崎のサッカー。サイドへと流れるボール。縦パス。ボールは中央へと戻り、逆サイドへと流れ着く。後方からのロングパス。ボールは横浜FCの網目を通過し、上空を舞ってそれを広げる。  サッカーへのリスペクト。それはスペースへのリスペクトと表現するのは大袈裟だろうか。相手のスペースを攻略するため、そ

日本代表 観戦記|代表を生きる渇望|国際親善試合 日本 vs 韓国

 灰色の空の下、巨大な宇宙船が横たわる。新横浜駅から日産スタジアムへと向かう。広い歩道。開けた視界。それらは僕の心と身体を伸ばしてくれる。トリコロールから青へと変わる日。久しぶりの代表戦だ。  世界は刻々と色を変える。灰から黒へ。最後の力を振り絞るように、太陽が鮮やかな朱色を残す。韓国を応援する人々に割り振られた区画に僕はいる。些細な希望はあるが、僕にとっては試合を拝むことができれば取るに足らない。しかし、周囲の人々がまとう赤い衣。視線と聴覚を突くハングル。ここは横浜だ。し

Jリーグ 観戦記|Jの灯火|2021年J1第1節 川崎F vs 横浜FM

 白縹(しろはなだ)に空が、空気が染められていた。遠くからグリーン・デイの『Basket Case』が耳に流れてくる。「待ちに待った」と表現するのは大袈裟だ。しかし、二カ月ぶりのJは僕の心拍数を浮き立たせる。  空白のスタンドが日本の現状を語る。横たわる熱源からの距離。そして、冷めゆく熱。しかし、その火が消えることはない。世界は静かだ。だからこそ、小さいながらも燃え盛る、炎心の強さを感じずにはいられない。感情の渦がここにある。じかに触れ、僕の眼を涙が薄く包む。  試合を遠

Jリーグ 観戦記|美しき献身|2020年J1第23節 横浜FC vs FC東京

 透明な光に照らされた視界。そこに黄色が差す。雨が過ぎ、空は鈍色から淡色へとフィルターを変えた。三ツ沢へと向かう新横浜通り。ザ・ストロークスが奏でる音色が耳から背中へと流れ、勾配を上る僕を背後から押す。  八月以来の三ツ沢。検温と手の消毒を済ませ、階段を駆ける。緑色のカーペット。青の濃淡が世界を分ける。音量を上げるように、人の気配やざわめきが空気に漂う。生きたサッカーが手の届く場所にある幸せを全身で消化した。  背後から号令が飛ぶ。FC東京が仕掛けるプレスの原則を探った。

Jリーグ 観戦記|扉と鍵|2020年J1第18節 川崎F vs 横浜FC

 流れる車窓が視界に貼りつく。空に灰色のスプレーを吹きかけた。そんな妄想が飛散する。  新丸子駅に降り立つ。空に同化したかのように、視界を灰色が占める。秋雨のせいばかりではないだろう。しかし、力の抜けた空気に僕の心はほのかに温まる。  皿を洗うようにしてカフェで仕事を片づけた。積み上がるメール。下に埋もれていた電話会議。仕事の一拍ごとにアイスコーヒーを挟みながら、集中を持続させる。  カフェを後にして等々力へと歩き出す。橙のイルミネーションが手近のツリーにかけられていた

Jリーグ 観戦記|勝利への筋書き|2020年J1第8節 横浜FC vs 広島

 三ツ沢へと通じる長い坂を上ると、絵画のような光景が眼に飛び込む。雲間から太陽が光を射し、夕暮れ時に訪れたその一瞬を祝福してくれているかのようだ。木々に身を隠すセミたちも梅雨明けの喜びを全身で表現するかのように、身を震わせて音を鳴らす。僕は横浜FCとサンフレッチェ広島の試合を観戦するため、ここ三ツ沢を訪れた。  緩やかなスロープを下り、スタジアムの正面へと歩を進める。左手には横浜FCに所属する選手たちののぼり旗が立てられ、通行人に笑顔を向ける。メインスタンドを過ぎ、目指すべ