書評 #76|色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年
思うことが多々ある。光と影。白と黒。『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』に限らず、村上春樹の作品には対立が存在する。しかし、それは二分しながらも、同時に一つの何かを作っていたりもする。表裏一体。淡々と紡がれる文章は流麗だ。しかし、そこには血生臭い生命力も感じてやまない。生活感の有無の共存と表現すると平易に聞こえるが、そんな印象だ。
多崎つくるとその仲間たちが作った共同体は社会における個人の写し鏡ではないか。乱れなく調和する親密な場所は美しくも、どこか不自然で脆さ