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書評

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2021年4月の記事一覧

書評 #39|オレたちバブル入行組

 読者の眼は、半沢直樹へと乗り移る。「理不尽をいかにして超えるか」。それが本著とシリーズの醍醐味だ。ねっとりとした雨のように降り注ぐ、理不尽な仕打ちの数々。その熱が上がれば上がるほど、ページを繰るスピードは早まっていく。その先にある、カタルシスを求めて。  人のため、世のため。献身的な中にも、半沢直樹は自らの信念をそこに宿す。だからこそ、彼は輝き、他者から信任されるのだろう。

書評 #38|ルカ・モドリッチ自伝 マイゲーム

 レアル・マドリードとクロアチア代表で活躍し続ける、ルカ・モドリッチ。三五〇ページを超える彼の自伝を通し、「モドリッチがモドリッチである理由」の断片を理解できた気がする。  世界でも稀有な存在。それは間違いない。しかし、リオネル・メッシ、クリスティアーノ・ロナウド、ネイマールといった「頂点の頂点」に位置する選手たちと比べ、どうしても華やかさに欠ける印象を受けてしまう。それは単純な見た目によるものかもしれないし、得点に直結しないポジションのせいかもしれない。しかし、僕が抱いて

書評 #37|半沢直樹 アルルカンと道化師

 シリーズの新たな幕を開く『半沢直樹 アルルカンと道化師』。変わらぬ魅力により、始まりから終わりまで、一瞬で駆け抜けたような感覚を覚える。  言わずもがな、世はお金を中心に回っている。しかし、根幹にあるのは、そのお金を使う人の心だ。本作も他のシリーズ作品と同様、心を問う。そして、お金よりも大切な何か。抽象的だが、心を大切にしないと、お金も手にできない。その事実を再認識させられる。  主人公である半沢直樹の敵として登場する多くの人々。保身という言葉に象徴される、利己的で一面

書評 #36|おもしろサッカー世界図鑑スペイン編

 スペインの歴史。そして、レアル・マドリードとバルセロナの歴史の要点を短時間で理解できる良書。  国旗と国章。国としての成り立ち。その過程から生まれた文化の数々。臨場感や歴史の名残のようなものを感じさせる写真。そして、チャーミングなイラストが作品と読者の距離を近づける。  途中で供される豆知識に舌鼓を打ちながら、「そうだろう」と思っていた不確かな知識に輪郭をつけてくれる。このシリーズがスペイン以外に広がっていくことを願ってやまず、スペインを訪れて、現地の空気を吸いたくなる

書評 #35|組織的カオスフットボール教典 ユルゲン・クロップが企てる攪乱と破壊

 リヴァプールが近年示してきた強さの背景が凝縮された一冊。読後の感想として、以前からの印象でもある「相手視点での意図的な迷いの創造」が補足された気がした。平たく言えば、それは「後出しじゃんけんの徹底」とも表現できる。  機械的に相手の守備を崩し、攻撃を防ぐディテールが随所に見られる。それらを読み進め、近代フットボールにおけるスペースの重要性を再認識させられる。攻撃時にはいかにしてスペースを作るか。守備時はいかにして塞ぐか。攻守が折り重なる展開の中、スペースを制する狙いと実践

書評 #34|女の答えはピッチにある:女子サッカーが私に教えてくれたこと

 本著は男性諸氏にサッカーに対する新たな視点を授けてくれる。適度に力の抜けた文体。それが風のように鋭い指摘や比喩の数々を読者に運ぶ。語弊はあるかもしれない。しかし、僕の目線から見える韓国の人々は激情型であり、そのエモーショナルな香りが端々から漂うのも個性を感じさせる。  著者がサッカーへと注ぐ愛情。それが眼から全身へと行き渡る。元ブラジル代表のロナウドが繰り出すシザーズに魅了され、壁パスやフェイントに恍惚する。サッカーを「しょせんは誤解と誤解が精密に組み合わされたスポーツ」