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書評

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2020年9月の記事一覧

書評 #7|影踏み

 群れず。こびず。ぶれず。横山秀夫が描く世界には芯の通った男が似合う。その芯は過去の傷を背負い、ぶれずとも揺れる内面のさざ波が読み取れる。理不尽さや矛盾の狭間でもがく、人間の姿がそこにある。  双子の弟を巻き添えにした母の無理心中によって、父も亡くした凄惨な過去を持つ真壁修一。『影踏み』は空き巣であった弟の啓二の人生を自らが生きるように、母と世間に弟の価値を証明するかのように「ノビ師」となった男の物語。  頭脳明晰。類い稀なる観察力。自らや周囲に降る謎や火の粉をノビ師のご

書評 #6|いまさら翼といわれても

 清風とノスタルジア。米澤穂信の『いまさら翼といわれても』を読んだ後、その二つの言葉が頭に浮かんだ。  高校の古典部に所属する男女四名を中心に繰り広げられる短編集。そこはかとない滑稽さと身震いするような描写があり、読者を飽きさせない。  高校生らしからぬ会話の組み立てと丁寧な心理描写は自分自身が高校生だった頃の心象風景を思い起こさせる。身体も心も大人未満。しかし、大人にも負けない信念や高校生だからこそ持ち得る、純真無垢な意志を主人公たちは宿す。  彼らが相対する謎の数々