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モノローグ台本『秤』

『秤』本文

作:渋谷悠  原案:寺嶋裕希

あなたが正しさに溢れ、迷うことを忘れてしまった時「そこ」に導かれる。
昔から知っているのに、詳しくは思い出せないような建物、の裏。
天気がよくてもジメジメしていて、どこに辿り着くか分からない階段、の先。
捨てられた生き物たちの魂が吸い込まれる敷地、の中。

そこであなたは「それ」と対峙する。
「それ」は人のようで人ではない。影、鏡、獣、煙、はてな。
「それ」は口のような何かを開き、あなたに語りかける。

私は秤にかける者。私は秤を愛でる者。
迷いは人を脆くするが、脆さは人を磨き上げる。
正しさに溢れる者よ、足元を見るがいい。
お前は風に吹かれて変わり続ける砂丘に立っている。
いつまで強く歩を進められるだろうか。
正しさに溢れる者よ、手元を見るがいい。
お前が力一杯握りしめるその光る硬いものは、
お前が思うような宝石か、それとも刃物か。
立ち止まるがいい。時を数えるがいい。
お前が記憶の闇に閉じ込めた秤を引きずり出してやろう。
私は秤にかける者。私は秤を愛でる者。

ああ、随分錆びてしまっている。どれ、動かしてやろう。
秤よ、お前の両手で受け取るがいい、はかるべき事柄を。
真実と嘘、勝利と敗北、始まりと終わり、許可と禁止、尊敬と軽蔑。
…ああ、聞こえてくる。
秤がこっちに傾いて、秤があっちに傾く音色だ。
発言と沈黙、上品と下品、平等と差別、重大と些細、はいといいえ。
…ああ、秤が軋んでいる。軋んでいる。
(対象を見て)いい表情だ。迷いの模様が広がっている。
揺らげ、揺らげ、脆くあれ。

「それ」は指のような何かをあなたに向けて、
笑顔のような何かを浮かべ、消えていく。
「それ」が消えた後、一度だけ囁き声が辺りに響く。
私は秤にかける者。私は秤を愛でる者。

あなたは、元いた場所に戻されるだろう。
そして、発しようとしていた言葉の一つ一つを、秤にかけるだろう。

使用許可について

・公演、ワークショップのテキスト、演技動画をYouTubeにアップするなど、ご自由にお使いください。上演許可・使用料は不要です。
・その際、作:渋谷悠のクレジットを明記してください。
・あわせてモノローグ集ハザマのURLをご紹介頂ければ幸いです。
https://www.amazon.co.jp/dp/4846021947

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劇作家・映画監督:渋谷悠とは?

1979年生/東京都出身。バイリンガル。
劇作家・舞台演出家・映画監督。ナレーション、スクリプトドクター、脚本執筆指導や演技指導の講師としても活動する。
第66回ベネチア国際映画祭入選。第46回国際エミー賞ノミネート。2020年度NHKサンダンス・インスティテュートフェロー。
39本の一人芝居が収録された著書モノローグ集『穴』を軸にセミナーや生配信番組を主宰するなど、日本の演劇界・映画界にモノローグを広める活動にも従事している。

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