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モノローグ台本『インタビュー』

『インタビュー』本文

作:渋谷悠

(映画監督の女、インタビュアーと対面する。)
あ、どうも、初めまして、ですよね一応?
何度かメールでやり取りさせて頂いたんで、そんな感じしなくて。
質問のリストありがとうございました、本当。
なんでも準備しないと気が済まないタイプで。
でもほら、シネマスタイルさんって言ったら有名じゃないですか。
映画ファンのバイブル的な…え?しますよそりゃ、緊張どころか昨日もあんまり寝れなかったし…。
(別のスタッフに)あ、大丈夫です、あんまりコーヒー好きじゃないんで。
(インタビュアーに)ちょっと精神的にキツかった時期があって、その時から飲めなくなって。…ね、なんなんでしょうね。
それはさておき、やっちゃいましょー。
もうなんでも聞いて、って感じ。
え、リラックスしてないですか、あたし?
(なんとなく座りなおして)これ以上のリラックス出ませんよ、多分。
はい、宜しくお願いしまーす。
(女、インタビュアーの質問を聞く。)
その宣伝コピーは配給の人が考えたもので、あたしはピンと来てなくて。
誰も死なない戦争映画とか、血が流れない戦争映画とか、それは単純にそういうシーンを撮らないで、残酷さ、非情さ、なんかを表現したかっただけで…。
あと予算的なこともね、だいぶ大きかったし。
(女、インタビュアーの質問を聞く。)
ええ、もとを辿れば、母の一言がこの映画を作るきっかけなんですね。
母は、戦争自体は勿論、戦争のニュースも世間話で触れることも、嫌いな人で。で、まだあたしが高校生くらいの時かな、近所のお蕎麦屋さんで「あたし、女の人が作った戦争映画なら観る」ってなんかの会話で母が言って、それがずっと残ってたんですよね。
そうそう、あたしの中ではその会話が蕎麦屋であったことも好きで。
それで兄が「なんで?」って聞いたら「子供を産んだことのある人は違うと思うのよ」って。
はは、そうですね、じゃあいつかそのシーンも映画に。
(女、インタビュアーの質問を聞く。)
そうですね、子供2人もいるんですけど、何かがガラリと変わるってことは無かったです。
あるかな、来るかなって思ってたんですけど…。
強いて言えば、母親に向いてないことに気付いたというか。
女が全員、母親になる為に生まれてきたわけじゃないというか。
(女、インタビュアーの質問を聞く。)
いや、おそらくあたしの場合もっと深刻で…。
あ、勘違いしないでくださいね、映画撮ってない時は家事だってしますしご飯もちゃんと作るんですよ、ただ、いわゆる母親の、無償の愛みたいなものは、隅々まで探しても、無いんじゃないかなーって。
本当、母親失格なんですけど、こっち側からすれば、逆に想像出来ないんですよ、子供の為に全てを犠牲にするなんて、世界で一番損な仕事だなって「仕事だ」って思っちゃうんです。
上の子が生まれた時も、みんな「なんて可愛い」「天使みたい」だとか、あたしはちっともそう思えなくて。
確かに、小さくて柔らかいけど、臭いものを毎日ちゃんと出す、垂れ流す、人間だ。あたしそんなものを産んだ、人間を産んじゃったんだと思って、ゾッとしたんです。

待って、例えばね、子供たちといるあたしを引きで撮って人に見せたら、この人頑張り屋さんだぁって、なんでこんなに頑張ってんだぁって、頑張って頑張って馬鹿じゃないこの人って、そう映ると思う。
(女、いつの間にか泣いていた。)
あれ、どうしちゃったんだろ?ごめんなさい。
えー、なんでだ?最近寝てないからかな…。
しっかりしろあたし。
もー映画に関する質問してくださいよ。

母親になってから、小さく硬い物が胸につっかかってるんです。
でもきっとそれが、あたしの魂なんです。

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https://www.amazon.co.jp/dp/4846017575

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劇作家・映画監督:渋谷悠とは?

1979年生/東京都出身。バイリンガル。
劇作家・舞台演出家・映画監督。ナレーション、スクリプトドクター、脚本執筆指導や演技指導の講師としても活動する。
第66回ベネチア国際映画祭入選。第46回国際エミー賞ノミネート。2020年度NHKサンダンス・インスティテュートフェロー。
39本の一人芝居が収録された著書モノローグ集『穴』を軸にセミナーや生配信番組を主宰するなど、日本の演劇界・映画界にモノローグを広める活動にも従事している。

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