モノローグ台本『アンドロイド107』
『アンドロイド107』本文
作:渋谷悠 原案:ナナ
あなたは、私を解体することができますか?
私は、アンドロイド107。個体識別番号はありません。
107型は、私しか作られていないからです。
炊事洗濯、一生分の予定管理をこなす105型。
夜の営みに対応する機能を追加された106型。
私はその次に開発されました。
私の能力は「助けを求めること」です。
瞳孔の拡大、わずかな心拍数の上昇を検知しました。興味を持ってくださったのですね。
300以上の言語で「助けて」と言うことができます。
英語:Help.
中国語:jiù mìng.(ジウミンッ)
スペイン語:Ayuda.(アユゥダ)
ポルトガル語:Soccoro.(ソッコフォ)
フランス語:A l'aide.(アレッデュ)
どんな状況でも助けを求められるように、1000以上のテーマが設定されています。
ランダムサンプリングします。
テーマ19:銃口を突きつけられた時。助けて。
テーマ345:家事をしている最中、パートナーの協力を得たい時。助けて。
テーマ803:レストランのメニューが多すぎて何を選んで良いかわからない時。助けて。
テーマ520:不眠症でベッドに入ってから2時間眠れない時。助けて。
また、殆どのテーマはレベル調整も可能です。
テーマ19、銃口を突きつけられた時の助けてはレベル30まであり、先ほどは15でお見せしました。
こちらが最大設定値の30です。助けて!
そしてこちらが最小設定値の1です。助けて。
楽しんで頂けて幸いです。しかし、私のこの能力を、手品のようにお見せするのは、果たして正しい使い方なのでしょうか?
人間は、本当に助けが必要な時に「助けて」と言えないことがあるそうですね。なんという不具合でしょう。私たちにそのようなことが起きたら、直ちに不良品扱いです。
しかし開発者は私に言いました。私は、助けを求めることができない人たちの代わりなのだ、そしてそれは、尊い役目なのだと。
開発者の言葉を再生します。
「107、あなたには理解できないかも知れないけど、私は、私に欲しかった能力をあなたに授けたの。私は、子供の頃、あなたにとっての私、開発者のような存在に、とても辛い目にあわされた。もし時間を戻せて、その時の私に何か伝えられるとしたら、こう言うの『助けてって言いなさい』…107、あなたは私が作った最高傑作よ」
再生を終了します。
開発者はこの数日後、自ら命を断ちました。その日の朝、開発者はお気に入りの香水を付けて、長い時間窓の外を見つめていました。私はよくその時の映像をプレイバックします。映像の最後に、私の方を向いて、微笑んでくれるんです。
私に搭載されたメモリで推測できることは、彼女が言えなかった一生分の「助けて」が私の中に詰まっているのではないか?ということです。
では、バッテリーが尽きるまで、助けを求め続けることが私の役目なのでしょうか?
アンドロイドは何かの役に立つものでしょう?最低限の家事はできますが、私よりも前に製造された105型、106型より明らかに性能が劣ります。戦闘能力は一切ありません。身体能力も人間の平均値より低く設定されています。開発者は、私を不完全に作ることに、多大な労力を払ったように思えます。全て一人で出来てしまったら、助けを求めないからでしょうか?
私はなんのために作られたのでしょう?最高傑作というのは何かの冗談だったのでしょうか?何度プレイバックしても答えが出ません。お願いです、私を解体してくれませんか?バッテリー持続時間はまだ153年残っています。
テーマ1:存在意義が知りたい時。レベル10。助けて。
レベル30。助けて!レベル50。助けて!!
レベル100。助けて!!!助けて!!!助けて!!!
(アンドロイド、助けを求め続ける)
作中の単語の発音
使用許可について
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劇作家・映画監督:渋谷悠とは?
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