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モノローグ台本『いたずら』

『いたずら』本文

作:渋谷悠  原案:花里サチホ

(女、どこかの控え室で友人といる)
純子のドレス綺麗だったよー。結婚式で泣いたの初めて。眩しすぎてさぁ、ああ、これちゃんと見とかなきゃって思えば思うほど涙が出ちゃって、視界がぼやけまくり。
苦しかったでしょう、後ろ取るね。
(女、友人がドレスを脱ぐのを手伝う)
はい、お疲れ様。ありゃ、安全ピンの穴、ちょっと大きくなっちゃってるね。大事な物に穴を空けるのって勇気いるよね。あの時のタオルみたい。

ほら、真夜中のプールに飛び込んだことあったじゃない?
何の話?じゃなくてほら、徹夜で建築の課題やってて、建蔽率も容積率もファックだわって、夜中の2時とか3時かな、眠眠打破もリポDも切れちゃって、じゃあもうプール入って目覚まそうよって純子のこと無理矢理連れてったじゃん。「しゃあない、あんたのいたずらに付き合ってやるよ」って言ってくれたよ。
(純子、全く覚えていない様子)
え、嘘でしょ?めちゃくちゃ大変だったじゃん。金網のフェンスよじ登って、上のところに有刺鉄線があって、服が引っかかるからタオルを有刺鉄線に巻いて、飛び越えたじゃない。いやマジ純子、あれは忘れない。有刺鉄線は忘れない。おばあちゃんになってボケた時、繰り返す話トップ3に余裕でランクインだよ。「私がヤンチャだった頃ねぇ、夜中に有刺鉄線を飛び越えてねぇ」って。私、あの穴が空いたタオルまだ持ってるんだよ。

やべえ、まるで私が日本語話してないってレベルでキョトンとした顔。え、人間こんなにキョトンとできます?もう顔っていうか、顔全体がはてなマーク。

プールの中で写真撮ろうつって服のまま入って撮ったよ。そうそう!私も翌日見に行ったらプールが汚くて、ってプールの汚さは覚えてんのにこれ覚えてないの?

なんか。あり得ないよ。
私にとってはあの頃の、多分今までの、1番の思い出なんだよ。純子が覚えてないって知るまでは、ついさっきまでは、これが私たちを繋いでるんだと思ってた。これがあったから、卒業しても、時間が経っても、友達なんだと思ってた。ねえ、本当は覚えてるんでしょ?いたずら好きの私に対するいたずらでしょ?

えー、謝らないでよ…。そっか、でもその程度かぁ。
披露宴で出してくれた美味しいお酒、もっと飲んどきゃ良かった。
(笑って)安い発泡酒ばっかり飲んでたあの頃ね、私、自分は女の子が好きなんじゃないかって疑ってたんだ。…純子が夢に出てきてね、そこは遠くまで透き通った、あったかい水の中で…そこで、純子とキスをしたんだ、私の方から。
なんとも思ってなかったら言えるじゃん。ねえ聞いてよ、昨日純子とキスしてる夢見たんだよーって。実際言おうとしたの。言おうとたら、その唇が目に入って、唇の感触を思い出して、そしたらもう、何も言えなくなってた。

純子。どうなってたと思う?
いやだから、冗談じゃなくて、ちゃんと…伝えていたら、どうなってたのかなーって、思ったりしてさ。…どうなってたと思う?
(間)
…沈黙長過ぎリアル過ぎ!おいおい今の何秒?こういう時って5秒でも体感永遠だから、フォーエバーだから。もう忘れて。ね。プールのこと忘れたんだから、簡単でしょ。

私たち、あんなに設計図描いて、やれ平面図だ立面図だ透視図だ描いて、毎日徹夜してデザインの勉強したのに、自分がどうデザインされてるかは、ちっとも分かんないんだよね。
私なんかより、神様の方がいたずら好きだよ…よっぽど。

純子、聞いて。
私のサイッコーの思い出は、汚いプールの中にあって、今も有刺鉄線に守られてるんだ。

使用許可について

・公演、ワークショップのテキスト、演技動画をYouTubeにアップするなど、ご自由にお使いください。上演許可・使用料は不要です。
・その際、作:渋谷悠のクレジットを明記してください。
・あわせてモノローグ集ハザマのURLをご紹介頂ければ幸いです。
https://www.amazon.co.jp/dp/4846021947

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日本の演劇界・映画界にモノローグを広めるというビジョンのもと、渋谷悠のモノローグを40本以上無料で公開しています。

劇作家・映画監督:渋谷悠とは?

1979年生/東京都出身。バイリンガル。
劇作家・舞台演出家・映画監督。ナレーション、スクリプトドクター、脚本執筆指導や演技指導の講師としても活動する。
第66回ベネチア国際映画祭入選。第46回国際エミー賞ノミネート。2020年度NHKサンダンス・インスティテュートフェロー。
39本の一人芝居が収録された著書モノローグ集『穴』を軸にセミナーや生配信番組を主宰するなど、日本の演劇界・映画界にモノローグを広める活動にも従事している。

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