モノローグ台本『オリオンのお墓』
『オリオンのお墓』本文
(女、夫と一緒に穴を掘っている)
ふぅ~、腰に来るね!ほら相槌打ってないで掘る掘る掘る。
あたしまだ痛くてこっちの腕上がんないんだから。
高校生以来だな、穴なんか掘るの。あん時はねぇ、8年飼ってた猫のチャンジャ。うん、チャンジャ。どれくらいの深さがいいとか分かんないからだいぶ掘っちゃったの覚えてる。いやあたしはトバイアスがいいって言ったんだけど、父親がチャンジャって呼ぶと振り向くのよ。可愛かったな。
もうこんくらいでいいんじゃない?こんくらいにしよっ。オリオンは別に大きくなかったしね。
そうね、あんたはいつもちょうどいいって言ってくれてた。でもー?ほんとーは?おおきーほうがー?(笑って)分かってる分かってる。なんだっけ、手のひらから少し溢れる…たわみ、だっけ。
(女、瓶を取り出す。切除した乳房がホルマリン漬けになっている)
なんだろうね、切った瞬間から別物になるこの感じ。いやほら、爪とか髪の毛とか普段体の一部なのに、切った瞬間、抜けた瞬間、物体になるじゃない。これも、昨日までここにぶら下がってたのに、ね、もうおっぱいじゃないみたい。
さあ。さあさあさあ。どっちがやる?
いやだからオリオンを埋める儀式よ。育てたのはあたしだけど、可愛がったのはあんたでしょ?権利としてはフィフティ・フィフティじゃない?
…いいのね?今生のお別れだよ?映画だったらラストシーンだよ、バイオリンのメインテーマがうっすら流れて泣かされるところだよ。いや流石に泣かないか!
では、わたくしめが、責任を持って埋めさせて頂きます。
(女、瓶を地面に埋めながら)
女からしたらね、用途に合わせてサイズ変わってくれりゃいいけど、基本邪魔なのよ。ブラジャーの下に汗疹はできるし、人前じゃボリボリ掻けないし、ダイエットするとちっちゃくなるし、男は理想の形だの柔らかさだのブチブチうるさいし。片方だけでもなくなってせいせいしてるわよ。もう万々歳。
(女、土の中の瓶を見て)
バイバイ、オリオン。
(と言った途端、泣き出す)
もう見てられない!かけて!だから土よ。早くかけてよ。
やっぱ待って!やめて!
ねえ、ついでにあなたも何か切る?一緒に埋める?
だって!…一人じゃかわいそうじゃない。
あーもう見てられない。早くやって。だから土よ!早く埋めてあげて。
(女、夫が1~2回土をかけるのを見てから、自分もかける)
(埋め終わり、女、手を合わせる)
よし!おしまい。ありがとね。
あー、なんか急にお腹減ってきちゃった。お腹減らない?
西口の裏道に出来たどんぶり屋さん行ってみない?大盛り無料のクーポン配ってたのもらってきたから。ちゃあんと二枚。そんで帰ったらさ、残ってるこっちの方にも名前付けようよ。
(行きかけたところで)
あねえ、オリオンって名前付けた夜のこと覚えてる?
胸のここに三つのホクロが、斜めにあったのを見て、別に初めて見たわけでもないのにさ、あんたがオリオン座みたいだねって言ってくれたの。オリオン座が手の中にある。お前のおっぱいは無限だ、目を瞑ると宇宙に連れてってくれる。
(女、夫と一緒に仲良く笑う)
宇宙ってなんだよ。宇宙飛行士に謝れ。
よくこうやってホクロを触ってくれたよね。
(宙を3回つついて)ちょん、ちょん、ちょん。
使用許可について
使用許可&上演料不要のモノローグを公開中!
日本の演劇界・映画界にモノローグを広めるというビジョンのもと、渋谷悠のモノローグを40本以上無料で公開しています。
劇作家・映画監督:渋谷悠とは?
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?