モノローグ台本『かまってちゃん殺し』
『かまってちゃん殺し』
ねえねえ、めちゃくちゃ殺したい人がいるんだけど、一緒にシミュレーションしてくんない?
中学ん時やったじゃん。どうやったら先輩殺せるかってさ。睡眠薬飲ませて、ちっさい穴を空けた浮き輪に乗せて、海に流して、足に重りを括りつけといて、空気の抜けた頃、沈んでいくっていう完全犯罪。
みんなで真剣に考えてたら下校時間になってたよね!
採用になったあたしのアイディア実はさ、コナンでやってたトリックなんだ。
…知ってたの?なんだよ。
はぁ、殺しても怒られない世の中にならんもんかねー。
殺せなくても、生きる気力を奪うレベルで罵倒してやりたい。そういう法律できないかな、毎週火曜は罵倒OKみたいな。サイバーマンデー。バトウチューズデー。
うん、今度はバイト先の人。やることなすこと全て、しょーもない・オブ・しょーもない。今日なんかさ、
(友人が両手で「私にやりなよ」とジェスチャーをする)
ん、なに今の?
(女、ジェスチャーの真似をする)
…私にやってみなよって、なに罵倒を?いやおかしいでしょそれ。バイト先の人、御手洗ってんだけど、とは似ても似つかないし。いやスッキリしないよ。いや分かんないけど、多分ね。えーでも、ちょっとだけ…楽しそう。
え、じゃやってみようかな。え、いいの本当に?
(女、心の準備をする)
おい御手洗!あたしより後に入ってきたクセに社員だからって偉そうぶってんなよ。あ、待ってごめん。なんか手加減した。ちゃんと御手洗をイメージするわ。あの目を合わせて来るとことか、口元をクイっと上げる感じとか。
(女、心の準備をする)
うおい御手洗!いちいち「俺教えるよ」って雰囲気出すな。洗いもんしてんのにいちいち話しかけてくんな。はあ疲れたとかあたしに言うな。忙しいアピールを客にするな。上のにはヘコヘコ、下には強く出やがって。お前はなぁ、御手洗、かまってちゃんの中でも一番救いようのない「優位に立ちたいかまってちゃん」だ!
あたしがネギを薄く切るの苦手だって分かった瞬間に「ちなみに俺はこれくらいの薄さ」とか自慢してんじゃねーよ。薄いのは、お前の存在そのものだ!
(女、友人と一緒に笑う)
はーありがと。これ悪くないね。お金払ってもいいや。
…あたしさ、3歳ぐらいの時、妹が生まれてね、おばあちゃんの家に預けられてたんだ。
お母さんが左半身麻痺になっちゃって、そこらへんのことは後から聞いたんだけど、面倒見きれなかったんだと思う。
おばあちゃんの家が、おばあちゃんの寝室が、一番最初の記憶。
全部畳で、薄い布団が敷かれてて、おばあちゃんは寝てて、あたしは端っこにいるの。
寒くないのに、震えてるの。
窓からは月しか見えない。
ハッキリ覚えてるわけじゃないのに、なんだろね、かまって欲しい時に、かまってもらえなくて、そのままここまで来ちゃったって言うかさ。だから御手洗みたいのが出てくると、お前も抑えろよって思っちゃうんだ。
あたしが本当に殺したいのは、かまって欲しい自分なのかもねー。
満月の夜にさ「月が綺麗だよ」とか連絡来たりするじゃない?
あたし、いつも嘘つくの。
外に出たりしないし、窓も開けないし、見上げない。
ちょっと間を置いて「本当だ、綺麗」って返すんだ。
※
え?別に絶対見たくないわけじゃないよ。
…別にいいですけど。
分かった分かった。たまには見てやるか。
いっせーの!
(女、月を見る)
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