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モノローグ台本『弁慶によろしく』

Yu Shibuya

『弁慶によろしく』本文

作：渋谷悠

（小さな水槽がある。泥酔した男が入ってくる。）
ただいまさーん。
（水槽に近づいて）まーた1人になっちゃいましたよー。
弁慶、俺ね、振られちった。どっちかって言うと今までは、振ってきた方なんだけどね。それでなんて言ったと思う、あいつ最後に？
「弁慶によろしくね」だって。あいつお前の名前覚えてたんだな。
しょうがないからお前、帰ってきて伝えるしかないじゃないか。
よろしくだそーです。
あいつめ…凄い似合う服着てたよ。黒い、なんだかピチピチのさ。
どこ行くんだろねー、俺を振って。今頃どこで何してんでしょーか。
最後の言葉は俺にかけるべきじゃないの？弁慶によろしくって…。

お、水が汚れてきたねー。結構汚すよね。
んー明日！明日やります。もう全部明日。
（適当に歌って）明日〜。いつも1日先にある〜。作詞作曲俺〜。
いんや、それは良くない。投げやりは良くない。
たかが振られたくらいで（亀に）ね？
（男、水槽の掃除を始める。）
女に困ったことなんて無いんだから、自慢じゃないけど。
いや自慢だな。もう自慢しよっ。
歴代彼女自慢コーナー！まずは、第3位。ん〜原田まゆみ！
もうね、ムチムチのプリップリ。とにかく胸がね（大きかったというジェスチャー）。ヤバかったなぁ、あれ。抱きしめるともうひとり間にいるんじゃないかってくらいボリューミーだった。だがしかし！
典型的なかまってちゃんでしたー。
ちょっと返信しないと「パニック発作になりそう」とか言われてね。
はい、無理ゲー。パニックはこっちだっつーの。スタコラサッサー。

第2位は〜、佐倉奈々！とびきりのー、絶世のー、美人。
どんだけ美人かと聞かれれば、未だに写真を持ってるくらい美人。
（財布の中から写真を取り出して、亀に見せる。）
どうよ？亀の世界にゃボインも美人もないだろうけどどうよ？
この子もしっかりたっぷり病んでてね、ある時、ある夜、小洒落たスペイン料理屋でそれはもうしこたまサングリアを飲んだあとですよ。
ポロッと「ねえ、どうせあなたもいなくなるんでしょ」って言われたの。
おお…。楽しさのピークで出しちゃいますか人間不信。
そんなこと言われたら、その通りになっちゃうでしょ。

そしてお待ちかね、第1位は〜（口でドラムロール）中島明日香〜！
スタイル良し、性格良し、料理も出来るし、話にちゃんとオチがあるという奇跡のコラボーレーション。この子だと思った矢先、重いことを打ち明けたそうな顔で、重いことを打ち明けてきたわけ。
過食症っての？食べては吐いちゃうやつ。
「軽くなればなるほど自分が好きになれるの」って泣きながら言ってたよ。
「その先に本当の自分がいるの」はい、アウトー。本当の自分って…JPOPか。
いつもブレスミント口に入れてたよ。
あれ吐いた臭い隠す為だったんだね。
（水槽の掃除が終わる。）
よし…。どうだ？気持ち良いか？
いいか、弁慶。女ってのはなぁ、仲良くなるとリスクをおかして自分の闇を見せてくるんだ。……俺は、その度に、なんと毎回、逃げてきた。
お前にしたって、世話が簡単だから、面倒臭くないから、亀にしたんだ。

……これからもよろしくな。あいつの言う通りだ。弁慶によろしく…。
よろしくな。よろしくなぁ、おい。
この野郎、首を引っ込めんなよ。
出せよ、顔。顔出せよ。向き合えよ、おい。
向き合ってくれよ！

使用許可について

・公演、ワークショップのテキスト、YouTube動画など、ご自由にお使いください。許可申請・上演料・使用料は不要です。
・その際、作：渋谷悠のクレジットを明記してください。
・あわせてモノローグ集『穴』のURLをご紹介頂ければ幸いです。
https://www.amazon.co.jp/dp/4846017575

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日本の演劇界・映画界にモノローグを広めるというビジョンのもと、渋谷悠のモノローグを40本以上無料で公開しています。

劇作家・映画監督：渋谷悠とは？

1979年生／東京都出身。バイリンガル。
劇作家・舞台演出家・映画監督。ナレーション、スクリプトドクター、脚本執筆指導や演技指導の講師としても活動する。
第66回ベネチア国際映画祭入選。第46回国際エミー賞ノミネート。2020年度NHKサンダンス・インスティテュートフェロー。
39本の一人芝居が収録された著書モノローグ集『穴』を軸にセミナーや生配信番組を主宰するなど、日本の演劇界・映画界にモノローグを広める活動にも従事している。

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