モノローグ台本『イタい女コンテスト』
『イタい女コンテスト』本文
作:渋谷悠 原案:田島きよ乃
エントリーナンバー7番、藤堂ゆかり、ラッキーなのは番号だけ!
アラフォーが他人事ではなくなり、子供が欲しい男性からするとデッドラインギリギリ。今日もじわじわ市場価値下降中でーす!
趣味は婚活、もはや生き甲斐。出会い系アプリで「いいね」は来るけど幸せは来ない。終電逃せば大体やれちゃう。そんな私が、とっておきの話を引っさげて、このイタい女コンテストにエントリーします!
私のイタい話は:4年間一緒にいて付き合ってくれない男、です!
出会いはアプリ。初めて会ったときは靴職人を目指してる人でした。すごく素直な人だなと思ったんですよ。彼の職場で凄く理不尽なことがあったんですけど「自分はそういう判断が一方的に下るのは悲しい」って言ったんですよ。
社会に対して怒りの方向に行く男性ってよく見てきたんですけど、彼は悲しいって。そこにダイレクトにアクセスできるってすごく魅力的で、初デートかつ初めましてで終電逃してホテルへゴーして最後まで行っちゃいました!
でも翌朝「気持ちは嬉しいし、綺麗な人だとは思う」という一線引いてるようなお言葉を頂戴しまして…。
それから毎年振られるんです。付き合ってくれないのに。
4年間一緒にいて、4回振られるんです。
まずは1回目。場所は新宿のスタバでしたね。サザンテラスの。
理由は、靴職人として勝負どきだから。
理解できるし応援するよって言ったんですけどダメでした。
2ヶ月後に連絡が来ます。飲みに行って、終電逃して、同じパターンです。
次の年。2回目振られまーす。
同じく新宿の、今度はセガフロートです。
この頃彼は靴職人をやめて、俳優を目指してました。で、付き合えない理由は、自分を探しにインドに行くからだと。見つけた自分で演技をしたいとかなんとか。
結局インドには行かず、3ヶ月後に飲みに行って、終電逃します。
3回目は去年。場所は新宿のドトール。カフェのレベルが下がっていきます。私のことは人間としては好きだけど、そういう風には見られないと。ありがち。自分探しの方がまだ面白味がありました。はいこれテイク3です。
えー数ヶ月後、飲みに行って…以下同文。
そして今年。4回目はなんと、私の家です。振るために私の家まで来たんです。事前に振りに行くよと言われたわけじゃないんですけど、4回目なんで流石に分かります。
でも疲れてたみたいで、うちに来るなり横になっちゃったんですよ。今度はパティシエになるって言ってて、徹夜でスポンジを作ってたそうです。
で、彼に手招きされて、抱き枕状態で夕方まで寝てました。時々目が覚めるとポソポソ「ありがとうありがとう」とか言ってんですよ。私もなんとなく「うん」とか返事したりして。ハグした状態で寝るのは嬉しいんですよ、心のどっかで。でも起きたら振られるの分かってるんですよ、心のどっかで。
2人して起きて、彼がようやく切り出しました。なんて言ったと思います?
「君にはもっといい人がいると思う」
いやー、ありがちさにも磨きがかかって参りました。
しばらくの沈黙の後「僕は一生自分を探すんだと思う」と呟いて出ていきました。
さあ、いかがでしたでしょうか?
このロクでもない男に4年も捧げた藤堂ゆかりに、皆さんの清き1票をお願いします!
(女の携帯が鳴り、見る)
え?ちょ、ミラクルです!その彼からの着信です!…出ちゃっていいですか?
(運営の了承をもらい、息を整えて、出る)もしもしー!うん今大丈夫、全然大丈夫。半年ぶりじゃん、どーしたどーした?……うん、やめてもいいと思うょ、パティシエ。…うん、私も会いたいょ。じゃあ…会ぉ?…うん、お店探しとくね。
(女、電話を切る。会場の視線を感じて)
てへぺろ。
使用許可について
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日本の演劇界・映画界にモノローグを広めるというビジョンのもと、渋谷悠のモノローグを40本以上無料で公開しています。
劇作家・映画監督:渋谷悠とは?
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