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モノローグ群像劇『いたずらのパレード』より:仁の視点”人様”

『人様』本文

作:渋谷悠

園子さん、お変わりないですか?
いっちょまえの言葉遣いで手紙を書こうと思ったんだが、ダメだ。お変わりないですか?なんて言ったことも言われたこともねえ。1行目を書いて、タバコを一箱空にしても続きがちっとも浮かばねえ。お前の知ってる仁さんの口調で書くことにするよ。

カズの野郎とは上手く行ってるか?ろくに瓦礫も運べねえ、弱っちい奴だったけど、俺が組にいた頃の話をやたらと聞きたがってな。かわいいところもあった。あんな奴とは別れて俺の女になれって言いてえところだが、どうも無理そうだ。

園子、俺はもうじき死ぬ。
肺気腫っていう病気だ。医者がごちゃごちゃ説明してくれた。細かいことは分からねえが、医者の話が長いときは、大概バッドニュースだろう。肺がスカスカらしい。空気を出し入れするにはスカスカで良さそうなもんなのにな、俺には分からん。勉強から逃げちまったから、脳味噌がスカスカなんだ。

この手紙は、昔俺の弟分だった奴に預けておく。俺が死んだら、送ってもらう手筈だ。ただな、俺といい勝負のバカだから、届かねえかも知れねえ。届くといいなぁ。
もし、あいつが覚えていたら、そしてもしお前の住所が変わってなかったら、俺の骨も一緒に届いてるはずだ。気味悪いよな、ごめんな。

親には、とっくのとうに縁を切られたけどよ、後始末の一つや二つ、頼める奴がいないわけでもない。でもな、階段もろくに登れなくなって、喉から変な音がするようになってな、園子が話してくれたあれを思い出した。
墓の代わりに木を植えるってやつ、話してくれたろ?
森の墓地みたいな、何だっけな。遺骨が肥料になって、木が育つとか言ってたろ。

もし、あれを本当に作ってたら、俺の骨をそこに埋めて欲しい。
今度は木に生まれ変わって、今度こそ、人様の役に立ちてえんだ。
先週、近くの神社でもお願いしてきた。ありゃ何の神様だろうな。そういや被災地でも行ったな。流されなかった神社、一緒によ。

園子、お前には知っといて欲しい。
足洗ってからは、とにかく人様の役に立とうと、俺なりに頑張ったんだ。でも頑張ったからこそ言える。足りない。どんだけボランティアしようが、寄付しようが、困ってるやつ飯食わせようが、足りない。俺がかけてきた迷惑の量に、追いつかない。謝って済むことが何一つない。思い出せば思い出すほど、申し訳ない。
後生だ、俺を木にしてやってくれ。

木はいいよぉ。役に立てる。
枝の上で鳥さんが一休みできるし、突っ立ってんのが嫌になったら割り箸になれるし。この手紙だって、元はと言えば、どっかの木だったわけだもんな。

それにな、木は空気を作れる。
今、ろくに呼吸もできねえ俺が、空気を作るんだから、傑作だろ?
だから、なるべく根っ子の近くに、埋めてくれよ。
頼むよ。よろしくな。

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https://www.amazon.co.jp/dp/4846017575

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劇作家・映画監督:渋谷悠とは?

1979年生/東京都出身。バイリンガル。
劇作家・舞台演出家・映画監督。ナレーション、スクリプトドクター、脚本執筆指導や演技指導の講師としても活動する。
第66回ベネチア国際映画祭入選。第46回国際エミー賞ノミネート。2020年度NHKサンダンス・インスティテュートフェロー。
39本の一人芝居が収録された著書モノローグ集『穴』を軸にセミナーや生配信番組を主宰するなど、日本の演劇界・映画界にモノローグを広める活動にも従事している。

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