見出し画像

北米大陸から南アメリカへ。カリブ海を7人乗り小舟で超えてみた。

南米大陸と北米大陸は地図で見てもか細くてよくわからないが、実はか細い陸地でかろうじて繋がっている。

その名も「ダリエン地峡」

この細い陸地、繋がっているくせして深いジャングルに閉ざされ道路は通じていないという曲者である。噂ではマフィアがこの地峡を牛耳っていて、薬物やら銃器の通り道になっているとかベネズエラの不法移民たちの通り道になっているとかいないとか。

ともかく、北米と南米を移動する旅人はなんとかして、この地峡を道路以外の方法で渡るわけだが、今回私が選択した方法が「ランチャー」と呼ばれる海上のバスである。
過去ヨットツアーやボートツアーを通じて海上移動する様子はいくつかのブログやノート記事で散見されたが、このランチャーを使っての移動については情報がいささか少ないため、ここにその詳細を記録しておく。今回の旅行中、どこに行ってもいるはずの欧米人バックパッカーの存在すら確認できず、全く観光地化されていないカリブ諸島の暮らしを体感できたのは良い経験だったし、今後物好きな旅人がランチャーを使っての移動をする際の参考になればと思う。

1日目「ランチャーの港へ向かう」

まずはカルチ(Carti)という港まで移動する。googlemapで確認する限り、このcartiがカリブ海・大西洋側で道路の通じている最も南米大陸側の港だ。それでもコロンビアまで200km以上離れている、、、もうちょっとコロンビアがわの集落に道をつなげばいいのに…というかコロンビアに道繋げばいいのに涙。

ともかく、cartiの港まで幹線道路から40kmほど。自転車で旅行をしている私はこれまでの経験から、この距離ならまあ休憩込みでも3時間もあれば着けるかなと油断していた。

脇道に逸れた瞬間から自転車を押さなければ漕げないほどの急なアップダウンの連続で、全く進まない。標高自体は低いけど、坂がとにかく急で全く進まない。予定の3時間すぎたところで半分も進むことができず、その日のうちでのカルチ到着を断念。適当な廃屋で野宿して翌日の到着を目指す。なーに、特に予定がある旅でもないし、そもそもカルチ以降の情報をほぼ仕入れてないのでいつ着いたとしても特に問題はないだろう。運良く、水も大量に確保している。なんて自分を納得させてその日は就寝。


2日目「港でランチャー探し」


翌日、大量に確保したはずの水もほとんど使い切りながら、パナマのジャングルの中を自転車を押しながらカルチに向かう。途中坂が重すぎて2回も荷物と自転車を分けて坂を運搬する羽目に。地元の工事車両のおっさんが面白がって写真を撮ってた。いや、写真撮るくらいなら手伝ってくれよ!!!途中の検問で入港料23ドル(人20ドル+自転車3ドル)を支払う。

自転車と分離した荷車をを引っ張る姿

お昼過ぎにカルチの集落に到着。到着すると明らかに旅行者のわたしに地元の人が声をかけてくれる「よお、どこいくの??」「コロンビア!」これだけで大体の事情をわかってくれたみたい、やはり私以外にもこの方法で大陸を移動する旅行者がいるんだろう。「あそこにいるおっさんに、コロンビア行きたいって言えばなんとかしてくれるよ」と教えてくれた。
素直にその言葉に従い、赤キャップのサングラスのおっさんのところまで行って「コロンビアに行きたい!」というと何やら色々説明してくれるがチーンプンカンプン。

色々説明してくれたおっちゃん

根気よく説明を聞いてみると「コロンビアに直接行くランチャーは存在しない、俺たちの船はカレドニア(Caledonia)という、相当近くの島まで明日出発する船がある。そこから国境の集落プエルトオバルディアまでは1時間くらい30〜40ドルで行けると思うで」という提案だった。料金は人=80ドル、自転車=20ドルの計100ドル。ふむ、話を聞く限りでは飛行機より安そうだし悪くなさそうだ。しかし相場がわからん…ちょっと時間をもらって、他にもコロンビア方面に行く船がないか探してみることにした。
カルチの集落は個人商店が一つ、食堂二つの小さな集落だが、サンブラス諸島につながるメインポートなだけあってボートの泊まれる桟橋は合わせて10以上はありそうだ。わざわざ最初に聞いた人じゃなくてもコロンビア方面に向かう船があってもおかしくはない。
また自転車を押しながら浜辺を歩いていたら、別の小太りおっちゃんが話しかけてきた!「アミーゴ!どこに行くの?」「コロンビア」するとまた何やら色々説明してくれるがこちらもチンプンカンプン。じっくり話を聞いたところ「船は4日後に出発で1泊2日でパナマ側国境のプエルトオバルディアまで行くランチャーがある。」ということらしい。なるほど3〜4日かかる想定でいたので1泊2日でプエルトオバルディアまで行くのは悪くない、ただ四日後というのが気掛かりだ。値段を聞くと自転車こみで200ドルだという。うーんそれは…
しかしおっちゃんはどんどん話を進める。「宿もとってないだろ?俺んちのここで3日で5ドルで泊まってくれていいよ」なんて調子よく言ってくる。もうちょっと他の船がないか探すからそれには決めないということを身振り手振りでなんとか説明。ただ、確かに一旦今日出発するなんて船はなさそうなので、とりあえず5ドル払ってそのおっちゃんの家の前にテントだけ晴らしてもらう約束だけして、他にもいい船がないか少しだけ聞き込みをすることにした。そう思ってテントを張って一息入れると、最初のカレドニアのおっちゃんがわざわざ来てくれて(というか小さい集落なのでもうみんな俺のことわかるくらいの勢い)「やっぱウチのがいいと思うで」と言ってきた。するとさっきまでの小太りおっちゃんも「カレドニアまで100は安い!」なんて自分達の利益度外視でそう言ってくるもんだから、それならばと、他の船を探すのをやめて最初の赤帽のおっさんのランチャーに乗ることに決定。時間を聞いたら8時出発、積み込みがあるから7時過ぎに指定の港に来てくれると嬉しいとのこと。「了解、ではまた明日」と言って料金を先払い。これだけみんなが知り合いなら組織ぐるみでない限り詐欺師でもないだろう…と信じてみた…。


暇なので来ているランチャーを観察していると、ランチャーには二種類あるみたいだ。一つは定期的?に近隣の島々を結ぶランチャーで地元の人や少量の貨物(飲み物や日用品)を運ぶもの。二つのランチャー運行会社?取りまとめ事務所?があってホワイトボードをみると簡単な時刻表が書き込まれている。これを使って地元の人は大陸で用事を済ませて自分の島に帰っていくんだろうな、という感じ。

桟橋の一つに停泊するランチャーカリブ海とは思えない海の汚さ


もう一つは欧米人向けの貸切ツアーランチャー。使ってる船は同じボートだが、欧米人がたくさん乗ってて、到着するとお迎えの車に乗り込んでパナマシティーに帰っていく。サンブラス諸島は波もなく、海が綺麗でヤシの木が生い茂るまさしく南の楽園みたいな場所なのでツアーが人気なのだろう。

使い切った水を個人商店で買い足し、その日は就寝。海風のおかげで普段の野宿よりは多少涼しく過ごすことができた気がする。

3日目「いざカリブ海」


6時ごろに起床、朝食と片付けを済ませ、指定された港に7時に行く。ボートはあるし、貨物の大部分は事前に積み込まれている。港のお兄ちゃんにもうちょっとここで待っててと言われ待つこと1時間ちょっと。結局8時過ぎまで待たされた。待っている間に近隣の島からのランチャーが時たまやってきて人が降りてくる。「いや、これなら8時集合で十分やないかいっ」とつっこみたいけど突っ込む相手もいないし、スペイン語も話せないのでグッと堪えて待つ。追加の物資や私の自転車を、結局出発は8時20分を過ぎた頃だった。乗客7人と船員2名の合計九人で出港。

実際に乗船したランチャー(画面奥)

出発すると想像の5倍早いスピードにまず驚く。体感では時速30kmくらいでてるし、最高時には時速40kmくらい出てるのでは?と思わせられる。おかげで波に揺られるのではなく波に衝突しながら強行突破することになり、その度に衝撃と波しぶきが大変なことになる。飛沫が体と貨物にかかるため、貨物にはカバーがかけられていて、体用のカバーも渡してくれた。どちらもビニールなのである程度は防げるがそれを凌駕するほどの飛沫がくるのである程度体や荷物が濡れてしまうのはしょうがないものと思って諦めるしかない。

水飛沫と奥に見える小さい無人島


ちなみに足は乗り込んだ瞬間から海水まみれなので一瞬でずぶ濡れになる。たまたま先週拾ったビーチサンダルで乗り込んでよかった。
唯一のプラスポイントは波に衝突こそすれど、ゆらゆら揺られることがないため船酔いはしなかった。俺はかなり乗り物酔いしやすいタイプなので、嘔吐を覚悟していたがせずに済んだ。

出発後は各島々や大陸側なのに道が通じていない集落に寄りながら人や物資を運んでいく、物資こそ置いていくことのほうが多いが人は意外と入れ替わり立ち替わり出たり入ったりする。トイレ休憩やお昼ご飯休憩のために長時間停泊することもある。せっかくなので散歩してみる。
まず驚くのは各島のトイレ。トイレは海に直接ぼっとん式になっている。おかげで島の周囲はトイレと船着場に囲まれているようになっていて正直あまり景観は良くない。引き換え、海自体は綺麗なのにも驚く人間のうんこを好んで食べる魚でもいるのだろうか。

海にせり出しているトイレたち


大きな集落には、お店や食堂、学校までしっかりあった。それでも全体に人口が過密な印象で通路は狭く、スラム街的な雰囲気が漂っている。
島々と大陸の間は島々が波を遮ってくれるおかげで波がない。そこでは丸田ぶねでみんな移動しており、魚を売ったり野菜を売っている船も見かけた。
他にはリゾートっぽく整備された島や完全な無人島も数多くあって、バラエティに富んだ島々を見ながら進むことができるので、意外と飽きることはないけど、それでも夕方3時くらいまで時間はかかった。

大きめの無人島を横目に
波のすく波の少ない所は手漕ぎの丸太ぶねも行き交う


カレドニアまでもう少し、tubualáという島で停車、途中から乗ってきた女子2人が民家に向かって降りていき、とうとう自分1人に次で終点のカレドニアかな?と考えていたら、船頭さんが「ここで降りろ」のジェスチャー、もうあと数キロでカレドニアなのにトイレ休憩か、と思ったらどうも様子が違う。なんとカレドニアの手前で早くもこのランチャーの終点のようだ!話が違う!!!と思ったが、自転車もおろし始めるし、もうなるようにしかならないので自転車と荷物を受け取る。
民家の人たちは「こいつ誰?」って表情…というか船頭さんに「こいつ誰?」みたいなこと聞いていたと思う。「コロンビアまで行きたいらしい」住民「へぇ」ってな感じでランチャーは去っていった。
何も事情がわからない私はその場に立ち尽くす、てっきり港に下ろされると思っていたら、まさか民家に降ろされるとは、そして部外者が敷地内にいるのに家の人は子供達を除き自分に興味はないようだ。。。なんで?
とにかく次の船と今日寝る場所の確保をしなければならないと思い、家の人に話しかける。「コロンビアに行きたい」「うん」「コロンビアに行きたい」「…うん」「コロンビアに行きたい、どこ?」「明日」とつたないスペイン語でイマイチ容量をえないが、ようやく分かったのはその民家の人がプエルトオバルディアとコロンビア側の国境の村カプルガナを結ぶランチャーの運行者らしい。つまり、最初に乗ったランチャーの人は終点まで行かずに途中で下ろしたのは、騙したのではなく、あえて乗り換えが便利なところを選んだ上に、そのランチャーの人に説明までしてくれてコロンビアまで連れていく手筈を整えていてくれたということだ。ということにしておく。
今日はその民家の軒先に寝ていいよということで、いきなり今日寝る場所と次のランチャーどちらも確保することができてしまう。島の散策を近くのお店までの100mほどしてみると、途中でよった大きな集落よりだいぶ規模が小さく、人が多すぎてかなり狭い。住民も好奇心を隠すことなく「こいつ誰?」という表情で見てくる。中には聞いてくる人もいたが、その度にお店まで案内してくれた家の少年が「日本から来たんだって」と説明してくれる。お店ではお水とイワシのトマト缶を購入。水は高いがイワシ缶は本土と同じくらいの値段だ。輸送費がかかる分高いのかと思ったが、意外とそうでもないらしい。
その後は時間を持て余し、そこに住むいくつかの家族の子供たちと水切りしたり、でんぐり返しをして時間を潰した。

子供たちのおやつたいむ


観察していると、シャワーや洗濯はどこからか無限に湧いてくる湧水を利用しているようで、この人たちはこの湧水を汲んで周りの民家・集落に売って生計を立てているように見えた。一度船がやってきて身内と思しき人たちが1時間ほど水を補給して去っていったのを見た。
1日の終わりに値段交渉、プエルトオバルディアに寄って、カプルガナというコロンビアの港まで行くので合計100ドルでどう?と提案され、プエルトオバルディアでもう一度船を探す労力や時間が読めないので一気にコロンビアまで行ってくれるのはありがたいということでその提案を承諾。
少し早いけど朝5時に起きてということで夜の9時に就寝した。

4日目「コロンビアの前に一悶着」


朝4時半ごろ、まだ日も登っていない時間に起床。片付けを終えて朝食はイワシ缶一つで簡単に済ませる。自転車を漕ぐ日ならもっと食べないと到底漕ぎ出せないけど、まあなんとかなるだろう。
5時過ぎに来たボートは昨日乗ったボートよりさらに小さい、なんか井の頭公園の手漕ぎボートの1.5倍くらいの大きさしかなさそうだ。自転車を乗せると、なぜか船員が3名で乗客も昨日のランチャーに乗っていた3名が乗り込み六人体制で出発。

止まった民家(画面左)とトイレ

かなり小さなボートになったのでスピードも少し落ち、波にも揺られるようになった結果、朝に食べたイワシ缶を無事撒き餌してしまった。それでも飛沫は減ったしどっこいどっこいかな、と思って耐えること1時間半ほど、一度乗客の乗り換えを挟んで、プエルトオバルディアに到着。俺は密かに乗客と船員がどうやって国境を越えるのか気になっていた。どうやら船員の代表1人、乗客の代表1人が代表してイミグレーションに向かい、全く別事情の俺もイミグレーションに行くことになった。

信じられない大きさのボート
自転車にはカバー


イミグレーションはなんだか小さい小屋?になっていてずいぶん簡易的に見える。もう、想像外のことがありすぎてまあ、こういうものなのかな?と思ってしまったが、ここがイミグレーションでないことを後から知る。俺と一緒に船を降りた2人はないやらカードのようなものを見せて、審査官が停泊している船をちらっと見てノートにメモ。そこで多分「今日はいつもと違って日本人がいるんだよね」と船員が言ってパスポートを提出、そこから雲行きが怪しくなってきた。全員スペイン語しか話せないので、俺は大したやり取りもしていないが、船員さんが色々説明してくれている。上司みたいな人が出てきて俺の荷物をチェックすることに、わざわざ船から荷物を取り出して、一つひとつチェックしていく。10分ほどでチェックを終えて、さあ出国かと思ったら、今度は俺1人で別の建物まで連れていかれ尋問開始。尋問と言っても仰々しいものではないが、自分の指紋や顔写真を撮って、データベースと通信して怪しい人じゃないかを調べるのだそう。

おそらくこの時期にツアーでもなく「個人で」「自転車持って」「海から国境越えるアジア人」なんて怪しい要素しかなかったのかもしれない。田舎のせいでデータベースでの通信に時間がかかり、その間は尋問とも雑談とも取れる会話をしていた。ここで追い打ちをかけるのが、パスポートを無くしている&メキシコに不法に入国してしまった関係でメキシコアメリカのスタンプがないこと。ちょっと怪しまれて、色々聞かれるがいかんせんスペイン語のせいでよくわからない。翻訳機能を使いながら事情を説明、なんとか理解してもらえたようだった。
データベースはアメリカとも連携しているらしく、アメリカの入国記録と入国時の写真も見せられて「これお前よな?笑」と聞かれて「確かに私です笑」と2人で笑ってしまった。無事、きちんと正規の入国手続きをして入国した健全な旅行者であることを理解してくれて、パスポートを返還された。


あれ?


スタンプは??

聞いてみると「?ここイミグレーションじゃないよ?」

ほげ??じゃあ今までのこれはなんだったのか聞いてみると「パナマの海上警察」?らしくイミグレーションには別で言ってくれとのことだった。

それなら最初からイミグレーションに行ってれば、この尋問みたいなの受けなくて済んだじゃん…
と心の中で愚痴りながら、今度はイミグレーションへ向かう。
こちらはあっさり通過し合計1時間半ほどかかってしまったのに、警察から出てきた時には船員の人が待ってくれて「大丈夫だった?」と優しく聞いてくれたので、「ありがとう、大丈夫!」と言ってまたボートへ乗り込んだ。やっぱりここでまたランチャー探しをするより、自分が終わるまで待ってくれて待ち時間なしでコロンビアまで連れてってくれるよう交渉できたのはいい判断だった。

カプルガナまでも1時間半ほどかけて到着、途中の陸地にコロンビアの国旗が立っているのを見ていよいよ南米大陸かと心が高揚した。ここから新たな旅が始まるんだ、、、。

カプルガナはパナマ側の集落と違って、道が通じていないわりにはしっかり観光地化されている。ホテルもあるし、飲食店も大量にある。近隣の港へ何十人も乗れる船が毎日定期で運行しており、ここまでくれば一安心できそうな街だった。

最後に

以上、俺のカリブ海旅行、いかがだっただろうか。ネットで情報が溢れる現代で、情報をろくにゲットできずにこのような形で旅行するのは、普段と違って不安と興奮が入り混じり、新鮮な気持ちで旅することができた。こんな気持ちになったのはキューバ旅行以来かな…。

当時の様子は随時youtubeでも配信予定。興味がある方は是非そちらもご覧ください。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?