真夏の夜の思い出
毎年花火大会の季節になると、ふっと思い出すことがある。
遡ること32年前、私は会社の社員寮に入っていた。
寮の決まりの一つに、
『門限10時』というのがあった。
一般的にはホテルなどにも門限があったりするが、私の会社の門限は緩くはなかった。
『門限を破ったら1週間外出外泊禁止』
というものだ。
1週間は会社と寮の往復だけで、1週間が経てば解除される。ただし、1時間のお昼休憩の時は買い物に行ってもいいというルール。
私はこのルールを頑張って守っていた。
会社と寮の間には守衛所があって、守衛さんがいる。寮生は守衛のおじちゃんと呼んでいた。
外出する時はおじちゃんに名前入りの木の札を渡したら、おじちゃんは椅子に上がって、壁の杭にひっかける。
しかも天井に着くくらい高い所にある。
なんでそこまでってくらい高い。
そして、戻ってきたらおじちゃんが札を取って受け取る。
それにしても、
1週間も会社と寮の往復だけって考えられない。職場と寮が徒歩1分の近さだから、気晴らしに行こうにも行けやしないし、
仕事が終わって同僚と食事に行ったり、休みの日は実家に帰ったり、買い物したり、習い事したりする事が出来ないって考えられない。
寮生の私にとって唯一の息抜きが出来なくなったら、その1週間は終了した気持ちになる。
だから、なんとしてでも避けたかった。
そんなある夏の地元の花火大会の日、悲劇が起きた。
門限を20分くらい過ぎてしまった。
寮からバスで20分くらいの所にある毎年恒例の花火大会に、同室の友達と行った。
色とりどりの華麗な花火に、日本の夏を感じながら、これからも毎日頑張ろうって、花火に誓った。
8時20分くらいになったので、
『まだ見ていたいけど、そろそろ帰ろうよ』
と、泣く泣く花火を背にして走った。
2人で顔を見合わせながら、どこからか湧き上がってくるワクワクする気持ちを爆発させながら、一心に走った。そしてバスに飛び乗った。
そして、渋滞になり、、、
うそでしょ??まさか!!
私達が門限までに間に合わないなんて!?
あんなに早く切り上げたのに、、、
交通渋滞の事は頭になかったのだ。
優しい守衛のおじちゃんは、残念そうな顔をして、なんだか憐れみを帯びた顔をしていたように見えた。
おじちゃん、そんな顔しないで、余計私達が虚しくなってしまうじゃないのよ〜。
私はほぼ絶望に近い気持ちだったけど、少しだけ自分で自分を慰めたかったから、
これでも頑張って帰ってきた、出来る限りの事はやった、悔いはない、と自己肯定した。
とうとう、私と友達の花火大会ならぬ1週間の我慢大会が始まった。
その後の一週間は、平日はいつもどおり会社と寮の往復をして、夕飯とお風呂で体を癒したので、気持ちのストレスも無かった。
土日は、何をしようかと思ったが、なるべくストレスを感じないように過ごして無事に終わった。
なんだかんだで、1週間外泊外出禁止という
『最悪を楽しむ』事ができたのは、友達と励まし合いながら、なんとかなるという気持ちを持ち続けたからかもしれない。
たまには、こんな夏があってもいいよね?
って、子どもの頃のいたずら心を思い出しながら笑い合った。
今でも忘れられない友達との最悪で最高の真夏の思い出となった。
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