見出し画像

yuka~kimikoとの出会い~

この話は現在のyuka。文化祭の少し前に遡ります。

自分は高校からバンドを組んでいて、パートはドラムを担当。

高校3年の夏休みまでは、たまにライブに参加はしていたけれど、
それほど本格的にやっていたわけではなく、メンバーの殆どが
同じ高校や同じ建築科だった事もあって、練習後の夜遊びが
主体の、今考えれば「練習よりも遊び」が真剣なバンドでした。

メンバーで固定されていたのが3人。
ギターとベースとドラム。
同じ建築科で、ギターとベースは身長が180cmを有に越えるガタイの
いい奴等だったけど、力に物を言わせる事が無く、この3人は学校でも
練習中でも、プライベートでも子供じみた「悪さ」ばかりしていました。

高校2年の時に、同じ高校の美術科のキーボードとボーカルが加入し、
ボーカルが意見の食い違い・・・。
というか、ギターの卓也を好きになって、バンドの中がおかしくなり、
強制的に辞めさせた。

ボーカル不在のままで、他のバンドから助っ人を頼んで、ライブには
出ていました。

高校3年の夏休みに。
あれほどふざけていた卓也が一念発起。
「最後くらいは真剣に練習して、コンテストにもライブにも積極的に参加しよう」
と真剣にみんなに提案。

ベースの国洋だけが「そんなんめんどくさいわ」と渋っていたけれど、
メンバー全員が一応賛成。
そこから急いで「ボーカル」を探す事にしたんですね。

そうなると卓也は強い。
国洋とは違い、見た目は良い。他バンドとの交流もかなりある。

そんな中で、卓也が「見つけてきたわ」という話とともに、一本の
カセットテープを渡してくれた。

「デモテープ?」とオレが聞くと、
「まぁ。そんなもん。一応歌入ってるから聴いてみて」と。

ダチの家に転がり込んでいる時だったから、そこでテープを聴いた。

聴くと、当時週末の地元FM曲でやっている、YAMAHAの学生バンドを
中心としたコミュニティ番組だった。

そこにアシスタントが高校&大学生の女のコ3人がいて、
番組の中で、アシスタントそれぞれが、その週の「課題曲」を歌うと
いう構成になっていた。

その3人の中で、一際(ひときわ)インパクトの強い女のコがいた。

少しハスキーボイスで、それでいて伸びのある声。
感情移入も凄くて、ミキサー無しでここまで歌えるコがいるとは・・・。

卓也に連絡して、
「最後に歌ったコ?」と聞くと、
「そう。そのコ。凄いやろ。」と。

「このコ、うちんく(自分のところ)のバンドに入ってもええ言うたんか?」
とオレが聞くと、
「かまん(いいよ)って言よる(言っている)」と。

これは凄い事になった・・・。
このコの歌声に合わせるような技術なんか、みんな持ち合わせてないぞ・・・。

「何年生なん?」とオレ。
「まだ高校入りたての1年生」と卓也。

この声で高1とか・・・。これも驚いた。
「歌が好きで、小学校から日本楽器(YAMAHA)のボイトレに通ってるらしいぞ」
と卓也。

まずは会ってみるか。と、卓也とは話をしたけど、
キーボードの美術科の陽香も、ベースの国洋も、腰砕けになってしまい、
「これは無理やろう」という雰囲気がメンバー内に渦巻いていた。

全く環境が違う。
こっちは約2年半、遊びながらダラダラやっていただけなのに、
向こうは夢を持って、しっかりと練習して、この結果を出している。

こんなバンドに、音を出した瞬間に、断られるかもなぁ。という心配も
ありつつ、高1の彼女。「kimiko」と会う日が来た。

「ファミレスで話しでもするか」という国洋に、
「なんでやねん。スタジオに来てもらうほうがええやろ」と、
やる気の無い、有る卓也と国洋の温度差がありつつ、
スタジオで会う事にした。

来た瞬間にも驚いた。
物凄く背の小さい・・・。
身長は150cmあるかないかの、チョコっとした。
リスみたいな感じのコだった。

オレはドラムの椅子に座っているからいいものの。
ギターとベースの間に挟まると・・・。物凄い身長差が・・・。

デモテープならぬ、彼女のFM放送を聴いてはいたけれど、
物凄く静かな。大人しい感じの女のコだったというのが第一印象。

オレら3人よりも、ここはキーボードの陽香に任せたほうが良い。

陽香に、それぞれのメンバーを紹介してもらって、
「あ。ども。」
「あ。ども。」
みたいな感じで、自己紹介を終え、

卓也が、一枚紙を渡して、
「この中で歌える歌ある?」とkimikoに聞いた。

「これとこれなら」と静かに話すkimiko。

まぁ・・・。突然年上のバケモノみたいなオトコ2人に囲まれて、
萎縮するのも無理ないわ・・・。と、オレは思いつつ。
卓也が「じゃあコレ」とREBECCAのRaspberryDreamを指さした。

カウントは全てオレからである。
いきなりのアップテンポだけど、大丈夫かね・・・。と心配しながら、
カウント⇒前奏になり、kimikoのボーカルが始まる。

「なんっじゃこれ」と。声に出したいくらいの声量と音域の幅。
そして、ハスキーボイスでこれは・・・。

オレが途中で叩くのを止めて、みんなも演奏するのを止めた。

突発的な感動と感情は「アホな事しか言えない。」

「めっちゃ上手いやん!!凄いやん!!」とオレが言った。

kimikoは、恥ずかしそうにうつむきながら、少しはにかんだ。

その後、何曲かやった後に、みんなが居住まいを正して、というか、
kimikoに再度、きっちりとバンドに加入するかどうかを卓也が聞いた。

「入る?」←そういう言い方しか、卓也は出来ない。
kimikoは「私で良ければ。」と、小さな声だったけれど、はっきりと
加入の意思を示してくれた。

その中で「どんな歌が好きなの?」と聞いてみたら、kimikoは、
「今。練習している歌ですけれど、聴いてみて下さい」と、
メンバーそれぞれにカセットを渡してくれた。

ダチの家に帰ると、
「おーゆうき。どうやったん?」と津川が言う。
「入るらしいわー。それにしても歌上手いわ。アレはやばいな」とオレ。

「デモテープくれたから聴く?」とオレ。
2人で、kimikoが練習しているという歌を聞いた。

ドラムの分厚いドテンポアップの2ビートからすぐにkimikoが歌い出した。

「え?なにこれ・・・。洋楽?」と津川。
「うん。なにこれ。パンク?ハードコア?」とオレ。
「これ・・・。凄いやん・・・。何歳?」と津川。
「16歳。高1やで・・・。こんなん相手できるか?」とオレ。
「これオマエら目指すん?」と津川。
「オレ。こんな歌歌えるとは思わなんだわ」とオレ。

後になって理解したのだけれど、
kimikoのバックバンドはYAMAHAの先生で、全てフルメンバーの
かんっぺきな音楽で構成されていて。

彼女が歌ったのは、
Janis JoplinのMove Overだった。

ゆうさん


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?