蹴っ飛ばした消火器
消火器蹴っ飛ばしたあいつが
スーツを着て、俯いて歩いていた
僕はそれを反対側のホームから覗き込む
消火器蹴っ飛ばしたあいつは
怒りん坊だった。今ではどうかわからない
でも少なくとも今は、我を忘れてないみたい
消火器蹴っ飛ばしたあいつが
先生に追われていた
血潮みたいに飛んでった消火栓をみて
僕は笑った
消火器蹴っ飛ばしたあいつは
よく怒った。のっぽの女の子に机を投げつけ
それを片手で止められていた
僕は笑った
消火器蹴っ飛ばしたあいつが
僕は羨ましかった
僕が消火栓を蹴っ飛ばしたかった
でも、もう過去のこと
僕は駅のホームに転がる石を蹴り飛ばした
消火器蹴っ飛ばしたあいつは
駅のホームから消えた
嗚呼過去の亡霊だ
それは僕の悔い
そして彼の悔い
消火器蹴っ飛ばせなかった僕は
影をなくした
消火栓蹴っ飛ばしたあいつは
影を消した
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