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暗いところ

 ゆったりとした時間が流れる。漫然とした風の流れ、悠然とした潮の満ち引き、そのすべてがまるでナマケモノのようにゆっくりとしていて、まるで帰り道の影のように大きい。しかしそれはいつしかなくなっていくものだし、その先に門番のように待ち構えているのがあの「暗いところ」なのだ。

 私は緊張したような面持ちで暗いところを歩く、しっかりと目が暗順応したところで人の輪郭さえ分からない暗闇、昔修学旅行で行った沖縄の防空壕のように寒く、そして暗い。光が一寸も入る余地もない。

 私の心臓の鼓動はだんだんと速くなっていく、この暗闇では音も聞こえないのだ。聞こえるのは自分の呼吸音と、この早鐘のような心臓の鼓動、そして後ろから聞こえる自分の足音。他には何も聞こえない。帰り道のような烏の鳴き声も、何処かの家族の笑い声も、車の通る音も聞こえない。

 私の思考はゆっくりと加速しているようだ。しかし、その何故には答えが存在しないということも分かっている。しかし人間は分かっていても問うのだ。何故ここにいるのか。

 ここは暗いところ、人が人である所


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