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最後の晩餐(上)

どうせ1年後にはワーホリに行ってるんだし。
長く付き合ってた恋人とも別れたし。

「今がチャンスじゃん!遊びなよ!」
っていう友達の一言をきっかけに、

“恋愛経験値あげようキャンペーン”と題して、
ノリと勢いで人生初のマッチングアプリを始め、
彼と出会った。

私はワーホリに行くことを決めていたため、
来年には日本からいなくなる。

彼も今の職場の任期が終わり、来年にはどこか遠くへ引っ越す可能性が高かった。

だから、お互いに結婚は考えていなかった。
かといって、その日限りの遊ぶ人が欲しいわけでもなかった。

私と彼はお互いの需要と供給がピッタリとマッチングした。こうして、終わりの始まりが始まった。


何よりも彼とは最初からフィーリングが合って
一緒にいて面白くて楽しかった。
こんなにも優しくて楽しい人がいるんだと思って
私はすぐに彼のことが気に入った。
楽しすぎて気づいたら毎週会っていた。

それでも、私たちには付き合うという選択肢はなかった。

・傷つけないこと、傷つかないこと。
・同じスタンスでいること。
・来年3月までの期間限定であること。

これが私たちの暗黙のルールだった。

終わりが決まっている優しくて楽しい彼のことは、
楽しい人でも好きな人でもいいけど、
大切な人にしてはいけないなと思った。


心の底から大好きになってはいけないという
もどかしい気持ちもあったけど、それよりも
彼との今を楽しむために割り切った恋人ごっこをすることの方が大事だった。

恋人ごっこを続けているうちに、もしもこのまま
ズルズルといったらどうしようと怖くなって
ある日、別れる日取りを決めたくなった。

「ねぇ、私たちの最後の晩餐する3月の日取り決めよう」

「うん、、、。実はさ言わなきゃいけないことがある。
次の職場決まったよ。」

「え!!!!おめでとう!!!よかったねーー!」
彼は転職活動を頑張っていたので、心底おめでとうと思った。

「場所はどこなの?」

「東京」

「おー!大都会じゃん!!よかったね!」

「それがさ、3月じゃなくて12月から来て欲しいって言われてるんだよね」

急に涙がポロポロと溢れた。

友達が東京へ引っ越すって言ったら、
絶対に「遊びにいくね!」って会いにいけるのに、
その一言を言ってはいけない人なんだと理解した瞬間に涙が止まらなくなった。
あ、これで私はこの人ともう一生会えないんだな。
初めてやっと、終わりの意味を理解した。

そして自分が思っていた以上に、私は彼のことが
好きなことにその時、初めて気がついた。
もしも出会うタイミングが違っていたら、きっと私は彼のことを大好きになっていたと思う。


来週、彼との最後の晩餐をする。


期間限定で終わりが決まっていたとしても、
それでも、彼に出会えてよかったと思っている。


どうか彼との楽しい最後の晩餐ができますように!

お互いそれぞれの場所へと大きく羽ばたいていけますように。と願いを込めて。





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