私と彼の物語 #2話

当時、私は大学1回生の時からサークルに入っていた。全員で20人ほどの小さな小さな集団で、週2で集まってダンスをするという、ノリ的な軽いものだった。それでも体を動かすことが好きだった私は、今まで知らなかった新しい世界に魅せられ、下手くそながらに一生懸命に楽しんでいた。

そのサークルの人たちは、大学も大学だったのでイモい人が多かったのだが、ダンスを嗜むだけあって、みんな痩せていったし、垢抜けるようになっていた。大学3回生ともなれば、周りは垢抜けている人ばかりだった。
そこそこ偏差値のいい大学に入っていた私としては、ここで彼氏を見つけて卒業して結婚できたらなんて考えていたが、3回生ともなれば周りに慣れてきて、無理かな、と諦める時期ではあったのだけど。

その中で、彼が登場してくる。当時、2つ上の院生OBだった。
ただ遊び人ではない、至って真面目な私からすると、あまりにもスラっとしていて、イケメンで、キラキラしていて、ただただ眩しかった。年齢も上だし、私からメッセージを送るなんてめっそうもない…そう思ってしまう人だった。

サークルにたまにOBやOGが遊びにきてくれる。
「お久しぶりですね」
「久しぶりやね」
他愛もない会話を繰り広げる。これから数日後になにがあるかも知らずに。

と言うのも、実は私が親知らずを抜くことになっていた。一人暮らしをしていた当時、親知らずを抜く。こんな心細いことはあるだろうか。いや、ない。
そこで、私は親知らずを抜いた後の私を介抱してくれる人を探していた。
そこで、たまたま家の距離が目と鼻の先ほどに近かった彼が登場してくる。
「わたし実は今度、親知らず抜くんです…終わった後、介抱してくれませんか」
あざといが、抜歯の痛さを考えると、全くあざとくない。むしろ血が出て、顔が腫れるであろう無様なシーンを、同期ならまだしも、なぜそのかっこいい先輩に見せてもいいのではないかと思ったのか。それは、抜歯に対する恐怖と、たまたま家がハイパーウルトラ近い、この2つの事実が私にその行動を促した。

「家近くやし、いいよ」
誰にでも優しかった彼は、すんなりとOKしてくれた。正直誰でもよかったが、抜歯後は話せるかわからないし、いつ独りになりたいと思うかわからなかったので、家が近い人がよかった。
何度も言うが、彼はモテるイケメンだったし、そんな人の家に2人になれる、転がり込める、そんな楽しみができ、抜歯という奇抜なイベントの日が、ただただ怖い日ではなくなったことは間違いない。

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