【ゆるり暮】ちょっと苦い出汁の思い出
(2021/1/4)
シャキ、シャキ、シャキ。朝から台所で聞きなれない音。そういえば相棒がお正月から使うって言うてたな。去年の暮れにおヨメちゃんからプレゼントしてもらった鰹節削り器。台屋という燕三条にある製作所の人気のブランドらしい。
自慢やないけど、母親が内職で生計をたてるビンボーな家で育った。料理を作る時間があれば一枚でもミシン掛をしたい。海のそばだったので毎日食卓にのるサバやアジやイワシの炊いたんは、出汁なしでも味がでる。魚のない日はスーパーのコロッケか鶏肉や豚肉を甘辛炒め。これも出汁なしで食べられる。ほうれん草のおひたしのてっぺんには白い化学調味料が富士山みたいにのってた。みそ汁の記憶はあまりなく、とろろ昆布に醤油とお湯をかけてカンタンすまし汁が多かった。
結婚しても、もともと料理が苦手。家族が多くお金と時間に追われる毎日に、顆粒だしは安くてめちゃ便利。いつかはちゃんと出汁をとってみたい、なんて思いもしない日々やった。
ひとつだけ、出汁というと思い出すことがある。イベントのお手伝いで炊き出しのお手伝いをした後片付けの時。ちょっと多い目に残った顆粒だしを他のメンバーに持って帰ってもらおうと配った。「これ、家で使いますよね~」とあたりまえのように差し出したら、その人は「私は出汁をとるからいりません」ときっぱり言わはった。傷ついたわけでもないのだけれど、30年近くたった今でも、出汁というと体のどこかにホワーンと少し苦い思い出が走る。
今は家族も一人二人といなくなり、相棒と二人。もともと料理好きの相棒は、出汁取りにチャレンジしている。そして元旦からは本枯節をシャキシャキと。
「えぇ音やね!ちゃんと削れてる?」
箱を開けたら、クズクズの鰹節がちょっぴり。シャキシャキという気持ちのえぇ音からは想像してなかったクズクズ姿にひっくり返ったけれど、少し苦い思い出がやっと楽しい思い出に変わりそうで少しホッとした。
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