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【不妊治療記録vol.17】いつも少数派の私たち

27歳で結婚後、海外赴任、結婚式などイベントが一通り終わった31歳から妊活を始めた私と夫(35)。生理は超順調、生理痛も一切なし、婦人科検診も毎年クリア。私が不妊なわけがない!と思っていたけど実は”妊娠しない側”だった私たちの不妊治療記録。


常に少数派な私たち

 30代前半が1年間避妊をせずにいた場合、妊娠の確率は約60%らしい。それでもシンガポールに引っ越してから半年経った最後のタイミング法。やっぱり妊娠しなかった。
 60%が自然妊娠するのにそれに引っかからない。なぜかこの期に及んで自分は多数派に入れるという自信があった。だって生理痛ないもん、だって検査したもん、だって手術したもん…こんなに乗り越えたのになぜという思いだった。
 同世代の芸能人や友人は一人どころか二人産んでいて、私もただみんなと同じようにママになりたいだけなのに、その願いが叶わない。どうして自分は妊娠するのに努力が必要なのか、苦しかった。


初めて大泣きした日

 生理が来た日、夫は日本から来た友人に三日間朝から晩まで付き合って観光をしていた。夫の友人が来るのは前々から決まっていたことなのに、ちょうど私の生理が来てしまった。「また生理きた」と夫にLINEをしようとするが、涙が滲んでうまく打てなかった。もちろん既読にはならない。

「体外受精痛いのかなあ…どんなことするんだろう」
「日本に帰らないといけないけど、どういうスケジュールで行けばいいの?」

 考えるのはいつも私だった。心配するのはいつも私だった。夫は言われるがままにこなせばいいだけ。なんて楽なんだろう。子供ができない未来だけを想像して、大泣きして、一言夫に「今すぐ帰ってこなきゃ許さない」とラインだけしてぼーっとソファーに座っていた。

他人事な夫に腹が立つ

 夫から「今から帰る」と23時過ぎに連絡があり、帰ってきたのは23時半ごろだった。

「生理きちゃった?」
「うん」
「着床出血かもよ」
妊娠する多数派になれないのに少数派の着床出血になるわけないじゃん!バカなの?

夫の能天気な発言にスイッチが入り、きつい言葉を吐いてしまう。

「もう今回無理だから体外受精しようと思う」
「うん、わかった」
「地元の病院も調べてオンライン診察予約したから」
「もう予約したんだ。体外受精したらすぐ妊娠できるといいね」
「もうっていうか、こっちはあなたがいない間ずっと調べてたの!一人で生理くるかな?来ないでくれって願いながら、体外受精のことも調べてたの。気軽に体外受精したらって、あなたは体外受精だろうかタイミング法だろうがなにをしたって出すだけなんだから苦しくないでしょ!痛くも苦しくもないんだから、どんな治療でどのくらいの期間必要で、どの病院がいいか情報だけでも集めたら?なにもしないで同意するだけの夫なんて無価値だから!もう子供もいらないんでしょ!?」

 限界だった。夫が疲れないように回数を調整して、やる気がなくならないように頑張って、今日はちゃんと最後まで持ってくれるかな、途中でダメにならないかなと気遣って。タイミングも検査薬で毎日三回測って、アプリと毎日睨めっこ。少し血が出れば着床出血かもと期待して、本格的に生理が始まれば苦しくなる。もう何回こんなことを繰り返すんだろう。あとどれくらいで解放されるんだろう。今までのことが急にフラッシュバックして、涙が止まらなかった。

長い沈黙の後、夫が口を開く。

「そりゃ子供は欲しいさ。ゆるりがそんなに思い詰められてるって気づかなかった。ごめん。俺もこれからはちゃんと勉強するから。体外受精のこと、よく調べるから」

 泣き喚く私を慰めるように、申し訳なさそうな顔をしてる夫を見て、沈黙が再び続いた。散々泣いた私はスッキリし、夫に「お風呂行ってくる」と言い残しそのままお風呂に入り、眠りについた。
 これは私と夫が不妊について初めて大きくぶつかった日だった。

翌朝の夫、驚きの行動

 翌朝目覚めると、夫がすでに起きていた。なにやら読書をしている。

「なに読んでるの?」
「今は不妊治療についての本。体外受精に進むから、どういう流れになるかは雑誌もあるからそれも読んでみる」
「急にやる気じゃん」
「俺もちゃんと勉強しないとね!よーし、いっぱい知識つけるぞ」

 どうやら昨日の件が効いたらしい。こうしてやる気に火がついた夫と体外受精が不安な私に、日本のクリニックとのオンライン診療日が近づいてきたのであった。

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