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「ただ話す」こと、「ただ聞く」こと【公認心理師インタビュー】

みなさんこんにちは! 不登校を乗り越えた経験者が運営するNPO「家庭教師のYURUMI」 編集部です。

この度、YURUMIでは、久保田健司先生を専任公認心理師としてお招きし、保護者向けオンラインサロン「保護者のためのゆるみ」を始めます。
こちらは、リアルの「親の会」のように、保護者同士が悩みや愚痴をはきだせる居場所であり、かつ、どんな支援や専門機関にかかるのがそもそも適切なのか、公認心理師に相談できるオンラインサロンです。

そこで、今回は久保田さんにインタビューを行いました!

※久保田さんの希望により、本記事では「久保田先生」ではなく「久保田さん」という呼称を使用します。その理由は本記事中盤にて!

久保田健司(くぼた・けんじ)
臨床心理士。公認心理師。
米国臨床心理学修士(M.A. in Clinical Psychology.)。
現在は、ハウジングファースト東京プロジェクトで、ホームレス状態の人への支援活動に関わる。地域医療、教育、貧困問題、トラウマ、家族・コミュニティへの臨床活動に注力し、オープンダイアローグの実践に携わる。


1.仕事について〜弱いままでいられる場所を作りたい〜

──久保田さんは、ホームレス支援に従事するかたわら、教育や家族・コミュニティへの臨床活動にも携わっています。その根底には、「ホームとは、何か」という問いがありました。

「僕は現在、ホームレス支援の仕事をしています。ホームレス状態にある方って、保護を受ける時にも苦労するんですよ。そこから助けを求められなくなって、諦めてしまったり。……その中でも明るい気持ちになるため、人が人として暮らせるようになるために心理士がいます。

でも、路上生活者という『狭義のホームレス』の他にも、あるべき心の住処を失っている人はいると思うんですよね。たとえば引きこもりや、漫画喫茶難民とか。そういう方々にとってのホームってなんなんだろう、ということを、支援の現場でもよく話すんです」

──中でも特に、ホームレス支援と並行して、不登校支援など、「親子」に関する支援に取り組んでいる久保田さん。その理由について、久保田さんは「僕自身も不登校だったんです」と話します。

「パーソナルな話になってしまうんですが……僕も中学3年間は学校に通えていなかったんです。いじめもあったし、家庭内のトラブルもあって。すでにこんなに生きるのが大変なのに、親ももっと努力しなきゃいけなくて、僕も責められているように感じて。

大人になった今だからこそ思うけれど、みんな、苦しいんですよね。僕の家では母が熱心に僕のことを理解しようと努力していて、その度に思い悩んで帰ってきていたんです。それは僕にもなんとなくわかっていました。だから僕が心理士として本格的に活動するときは、そういう、『親と子の支援』をしようと思っていました」

──そう語る久保田さんですが、「カウンセラーが活躍できるところなんて、微々たるところです」とも言います。

「カウンセラーは週1でカウンセリングをしますよね。ということは、週の残りの全ての時間は、カウンセリングで得られた非日常的な何かを持ち帰って、使える部分を使って過ごすことになる。だから、全てを一緒にわかってあげることなんて全然できない。

でも、カウンセリングの時間だけは、悩みを聞くことができる。ひとりぼっちで本当につらいときに寄り添うことができる。それが何よりも大事だと考えています。ずっと頑張らないといけないというのは、とても苦しいことですから。皆さんに何か変わってもらうという以上に、皆さんが弱いままでいられる、そんな場所を作りたい」

2.どうして「保護者のためのゆるみ」なの?

──「弱いままでいられる場所を作りたい」。久保田さんのその思いは、「ただ話す、ただ聞く」ということへの関心につながりました。

「臨床心理学って、いろんな流派があるんです。いわゆる精神分析みたいなものも、何かを教えるみたいな立場も。でも、いずれにせよ、心理士とクライアントが1:1の関係性になるので、ある種の権威を心理士が持ってしまうんですよね。

僕は実はね、先生って呼んで欲しくないんです(笑)。もちろん、結果的に先生って呼ばれるタイミングもあると思いますが……先生って呼ばれて、先生として振る舞い始めると、関係性が変わってしまう。みんな、ここまで自分の人生を歩んできたのだから、誰もが「先生」か、誰もが「さん」か、どっちかでいいよなって。

仕事をしていると、「ただ話す、ただ聞く」というのが必要な人たちがたくさんいることを痛感します。そういうことができる関係、侵襲的ではない関係を作っていきたい」

──既存の臨床心理学への疑問から、オープンダイアローグを学び始めた久保田さん。「人と人が会う、というところにこだわることができる」と、オープンダイアローグの魅力を語ります。

「オープンダイアローグが良いなと思うのは、『人と人が会う』ことにこだわっているところだと思います。……と言っても、それでも完全に立場から自由になれるわけではない、とは感じます。僕は心理士としてものを言っていますし、参加者も僕のことを『先生』だと思って話していると思います。無自覚に。

でも、『相手を尊重する』ということに、オープンダイアローグはとても近いと思うんですよね。普段、僕らはみんな、無自覚に人を傷つけながら生きているでしょう。そのことを自覚して、できる限り対等に、そしてできる限り相手を尊重するということを考えると、オープンダイアローグがすごくしっくりきます」

──「ただ話す、ただ聞く」。それは、オンラインサロン「保護者のためにゆるみ」に携わる上で、久保田さんが最も意識してることでした。

「正直なことを言うと、オンラインサロンは、もう本当に好きなように使ってもらいたいんです。ここに関わって、お一人お一人が幸福になって欲しい。それだけ。皆さんが孤立しないで頑張れる、そのための場所でありたい。僕はそれを見守る、くらいです。何かを教えるんじゃなくてね。

親って、社会からたくさんのものを要求されますよね。食事を作るのも親、しつけをするのも親。育てるのは全部親だと言わんばかりの厳しい要請があるじゃないですか。重すぎますよ。だから、たまには親という役割が解除されていてもいいんじゃないのかなと。

人間の中には、どうやったって『綺麗ではいられない心』があります。誰かを憎んだり、怒ったり、傷ついたり……そういう『不合理な私』ってものが、誰の中にも多かれ少なかれあると思うんですよ。僕はそれを、ただ許容したい。皆さんがその心と向き合っても、向き合わなくても、ただ、それらを許容できる久保田さんでありたいと思うんです」

3.コロナ時代の不登校

──「保護者のためのゆるみ」の初回レクチャーは、「コロナ時代の不登校」です。コロナ時代を生きる皆さんについて、久保田さんに話してもらいました。

「コロナ禍の中で、リアルな人との繋がりが断絶しまくっているというのは、苦しいことですよね。親は『親』という役割から、子どもも『子ども』という役割から逃れられない。昔の『みんなで育てる時代』からどんどん遠ざかり、負担が重くなっているように感じます。

そもそも、今、まさに今までの常識が崩れ去ろうとしているんですよね。去年は全く想定していなかったことが起きている。この時代の『正解』を知っている人は今のところいなくて。たとえば、新型コロナウイルスが冬に大流行する可能性だって、誰も否定できないんですよね。

この中で、粛々と日常を送ろうとしている皆さん、その親御さんがどうしたらいいかって、本当に難しいと思います。僕、今の小学生とか、本当に大変だと思っているんですよ。そういうことも含めて、大きな視座を持って考えていきたいです」

──その一方で、久保田さんは、今の時代のいい面にも目を向けています。とりわけ既存の「学校」に苦しむ人にとって、「自由になるきっかけでもある」と語ります。

「ある種、自由になるきっかけではあるんですよね。会社に通うこと、リモートで働くこと……コロナ時代をきっかけに、『家にいていい、家から勤務してくれればいい』っていう概念が増えてきた。学校とかもまさにそうですよね。大学を中心にオンライン化されている。

ポジティブに考えれば、今は自由になるチャンスです。これを機に、何を終わりにするのか考えましょうっていう。僕としても、オンラインで人と関わるってことを考える一年になった。乗り越えるときに、新しいものが生まれてくる。それを探していきましょうっていう機会でもあります」

4.保護者のみなさんへ

──最後に、「保護者のためのゆるみ」への参加を考えている保護者のみなさんへのメッセージをいただきました。

「話したいことを、持ってきてもらえたらと思っています。普段生活している中で、誰にも話せない気持ちがちょっとずつちょっとずつ、溜まっていくと思うんですよね。ほんのちょっとしたことでいいんです、最近散歩できるようになって楽しいとか、子どもがゲームしててイライラするとか。

だから、オンラインサロンでは、僕から『こういうカリキュラムをこなしましょう』ってことはまったくない。そういうお一人お一人の人生の中から、生まれてくるものがありますから。

皆さんが話したいことを話してくれれば、僕は嬉しいです」


「保護者のためのゆるみ」は、久保田さんと一緒に、いまお悩みのみなさまに寄り添います。「ここでは、気を張らなくていい」──みなさまがそんな風に思える居場所になります!
11月末まではお試し期間として【無料】でご案内いたします。「悩みを相談したい」「誰かにちょっと聞いてもらえたら楽になるのに」とお考えのみなさま、まずはお気軽にご連絡くださいませ。
詳細はこちらから↓
https://www.yurumi.or.jp/?p=9392


また、「保護者のためのゆるみ」では、10/24に久保田さんによるレクチャーを行います!
こちらのレクチャーは、
・「保護者のためのゆるみ」をご利用の方ならどなたでも
・無料で

ご参加いただけます。
詳細はこちらから↓


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