忍び寄る世界デフレ、慢性化回避、時間との闘い


【経済の停滞 世界デフレの回避】
 新型コロナウイルスによる経済活動の停滞が、世界に物価の下落をもたらしている。日本では緊急事態宣言が39県で解除され、各国でも人の往来や生産が戻りつつあるが、いざ経済活動を再開してみると消費が鈍い。解雇や賃下げによる個人の収入減が購買余力の低下につながったほか、感染への恐れが消費を萎縮させている。世界デフレの回避に向けた政策が不可欠だ。
 「客足は増えてきているけれど通常の半分くらい」。中国南部、広東省広州市の老舗「広百百貨店」。家電フロアを15日に訪ねると、エアコン売り場の店員は浮かぬ顔だった。2~3月も営業を続け、夏に向けた商戦の盛り上がりに期待するが、明るさが見えてこない。

【余計な出費 避ける人が増える】
 1~5日の労働節(メーデー)の連休では久々に旅行者があふれた。ただ、国内旅行客数の1億1500万人は前年同期の半分ちょっとでしかない。感染を避けて外出を控える動きがなお続いている。将来に不安を感じ「余計な出費を避けるため家にこもった」という人も少なくない。
 家電や家具、カーテンなど幅広い消費につながるため注目される住宅販売(主要4都市)は足元で過去5年平均の7割ほどだ。労働節でも過去平均に届かなかった。生産に連動する発電用石炭の消費量(電力大手6社)がほぼ回復したのとは対照的だ。
 消費が伸びないのに製品の供給が増えれば、物価は下がる。中国企業の出荷価格は4月に前年比3%と4年ぶりの大幅低下となった。「サービス価格も低調で、物価が上がりにくい『ディスインフレ』の懸念が再燃している」

【コロナショックは、供給も需要も不足の傾向あり】
 コロナショックは、企業が製品やサービスを提供できなくなる「供給不足」と、消費が減る「需要不足」の両面がある。供給不足が勝ればインフレになりやすいが、中国が示唆するのは需要の減少が深刻なデフレのリスクだ。

【物価上昇率は、下がる予想】
 国際通貨基金(IMF)は4月、各国の2020年の物価上昇率(前年比)の予想をいっせいに引き下げた。スペインやスイス、タイなどでは下落に転じる。失業率が20%を超えると予想される米国も0%台の見通しだ。実際、4月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比0・3%の伸びにとどまった。3月に比べガソリンが21%、航空運賃が15%も下がった。

 市場の見通しはさらに厳しい。物価に連動する金利と固定金利を取引する「インフレ・スワップ」は取引参加者の物価予想を映している。SMBC日興証券の丸山義正氏の計算では、ユーロ圏では1%以下が定着し、米国では3年後も2%に戻らない。
 デフレでは消費者が値下がりを予想して買い控える。企業が値下げを迫られ、賃金が下がる悪循環が起きやすい。長引けば、企業の破綻も増える。「企業の資金繰りや銀行のバランスシートまで影響が波及すると、さらにデフレ圧力が増す」(東京大学の青木浩介教授)ため、時間との闘いだ。

【消費の回復の鍵は、不安を除くこと】
 消費を回復させるには感染や雇用への不安を除くことがまず求められる。米国各州ではコロナの濃厚接触者を追跡調査する人員の採用が始まった。全米では10万人以上が必要とされ、米ジョンズ・ホプキンス大学などがネットで無料講座を提供している。
 コロナ禍でも医療従事者やネット通販・宅配、在宅勤務関連のIT(情報技術)企業などは採用を増やしている。次世代への投資を加速するチャンスでもある。うまく人材教育をしながら雇用をシフトするなど、「世界デフレ」を新常態にしないための矢継ぎ早の対応が必要だ。

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