遠隔勤務、人材採る機会に、スタートアップや中小IT競う、地方・都市圏、薄れる境界。


【遠隔で採用できるため、採用の幅広がる】
 新型コロナウイルスの感染拡大を機に、スタートアップや中小IT(情報技術)企業が遠隔地で働く人材の採用を拡大している。勤務地を問わない柔軟な働き方を呼び水に、優秀な人材の獲得を狙う。リモートワーク浸透で「職住近接」の重要性が薄れつつあり、企業が遠隔地の人材に目を向け始めた。
 インターネット上で契約できる個人向けカーリースを手掛けるナイル(東京・品川)は6月下旬、リモート勤務を前提とした人材の採用を始めた。家庭の事情などで東京への転居が難しい地方在住者が対象で、約5年間の契約社員として採用する。希望すれば長期の就労も可能だ。
 募集するのは自動車販売の経験を持つ営業職で、現在は約20人の営業職を2021年末に50人規模に引き上げる。年収は400万~450万円で、ナイルの東京勤務の社員と同等、業界平均と同等レベルとした。

【スタートアップ、中小のITは首都圏での採用が大変だったが、活路が見えてきた。】
 プログラミング教育のプロゲート(東京・渋谷)は、地方で勤務を希望する人材採用を始める。リモート勤務社員には手当を支給するなど、通常勤務の社員との給与水準に差はないという。
 ファーストリテイリンググループやパナソニックなど一部の大手企業では「地域限定社員」として特定の地域でのみ働く正社員を採用してきた。 転居を伴う異動がない分、昇給額を抑えるなど待遇面で正社員と差があるケースが多かった。厚生労働省の19年賃金構造基本統計調査によると、最も格差が大きい青森と東京では14万円の開きがある。
 スタートアップや中小ITなどの中小企業は首都圏では大手との人材獲得競争にさらされている。このため、待遇面で首都圏勤務と差がないリモート専用人材を幅広く募集すれば、首都圏で採用活動をするよりも優秀な人材を集められるとの期待がある。
 「関西や東北など拠点がない地域からの応募もきている」。GMOインターネットグループ傘下でレンタルサーバーを手掛けるGMOペパボは6月、新卒やアルバイトなどすべての採用で勤務地の条件指定を廃止した。取引先との会議などで出社する機会もあるが、基本は在宅勤務だ。マーケティングやエンジニアなどの業務で人材を募集したところ、オフィスを構える東京、福岡、鹿児島以外の地域からの応募が大幅に増えたという。
 コロナによる雇用危機は地方でより深刻だ。厚労省によると、5月の求人倍率は東京が1・55倍に対して沖縄が0・78倍、青森と滋賀が0・93倍と格差は依然として大きい。
 ただ、リモートワークの広がりは、地方にも勤務場所や時間の制約から働けなかった人材に新たな雇用機会をもたらす。パーソル総合研究所は働く場所や時間に関する制約があるために、働けない人が約60万人いると試算する。
 地方でのリモート専用人材の採用は、今のところスタートアップなど中小IT企業が中心だ。大手企業にも同様の動きが広がるには、ジョブ型雇用を導入するなど時間をベースにした働き方からの脱却が課題になりそうだ。

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