コロナで変わる街並み、飲食向け空室2倍、シェアオフィス受け皿


【東京 飲食店向け賃貸物件の空き状況が前年の二倍に】
 新型コロナウイルスの感染拡大で、商業ビルなど不動産の借り手の顔ぶれが変わり始めた。営業休止や時短営業が続いた飲食店向けの賃貸物件は、東京都渋谷区で空室が前年同期の2倍になった。一方で、テレワークの普及で需要が伸びるシェアオフィスの入居が増える。多くの人が集まることを前提に作られてきた街の風景が、一変する可能性も出てきた。
【ダーツバー→シェアオフィスに移行】
 ダーツマシンや卓球台が並ぶ東京・銀座のダーツバー。その一角で、ビジネスマンがコーヒーを飲みながらパソコンに向かう。ダーツバーを運営するバグース(東京・港)は7月末、シェアオフィス事業を手がけるいいオフィス(同・台東)と提携。都心の繁華街の2店舗の一部をシェアオフィスに改装した。
 バグースの渡辺徹也執行役員は「4月以降、ほとんどの店が赤字。シェアオフィスなら家賃を補える」と話す。いいオフィスも今後3カ月で約70拠点を開設する予定だ。龍崎宏社長は「空室に悩むオーナーのニーズと、自宅以外で効率的に働ける環境への需要に合致した」と指摘する。
 外食店の閉店が続いている。飲食店用の店舗の仲介サイト「飲食店・COM」を運営するシンクロ・フードの協力で、テナントを募集中の賃貸物件の数を分析した。同社は首都圏を中心に年間1万件程度を扱い、東京都内では全物件の大半をカバーする。
 有数の繁華街を抱える渋谷区で6月に新規に掲載された物件は147件と、昨年の同月(75件)の約2倍に達した。新宿区や港区も、5割以上増加した。閉店を通知された不動産会社による、テナント募集の掲載依頼が目立つ。新型コロナの感染再拡大で客足の戻りは鈍く、7月以降も同様の傾向が続く。
 オフィスの借り手も流出する。不動産仲介の三幸エステート(同・中央)によると、東京都心5区(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)の空室率は7月末に1・2%と昨年12月末に比べ0・31ポイント上昇。在宅勤務に切り替えるスタートアップ企業などが多い渋谷区は1・94%と、上昇ペースは5区平均より速い。働く人が消えると、繁華街に流れる人も減る。
 金融市場はテナント需要の急減をリスクとして織り込む。米格付け会社S&Pグローバルによると、主に不動産賃料を配当原資とする世界の不動産投資信託(REIT)市場では、商業施設を組み込んだ銘柄の時価総額が2019年末に比べ4割以上減った。全体の平均(19%の減少)に比べ落ち込み幅が大きい。
 半面、既存テナントの撤退は新たな業態の呼び水になる。飲食店向け賃貸を手掛けるテンポイノベーションによると4~5月、都内で解約が出た店舗にデリバリー専門店が入居した。志村洋平専務は「新型コロナの余波が続けばデリバリー関連の出店は増える可能性がある」とにらむ。
【格安になったオフィスは若手ITベンチャーが入居した】
 空室率の上昇は必ずしも悪影響ばかりではない。東京・渋谷は1990年代後半の金融危機で、周辺に本社を構えた東邦生命保険や日産生命保険などが経営破綻。空室の急増で賃料が下落した。
 だがサイバーエージェントなどが中心となって「ビットバレー構想」を展開し、割安になったオフィスに資金力の乏しいIT(情報技術)ベンチャーが続々と入居した。渋谷は先端的なテック産業の中心地となり、活力を取り戻した。
 渋谷の再開発を手がける東急ビル運営事業部の福島啓吾氏は「空室率の水準よりも、街から新しいものが生まれ続けているかどうかが大切だ」と指摘する。コロナ禍は街の新陳代謝を促す契機となる可能性も秘めている。

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