コロナが促す「物流テック」、宅配急増、データを駆使、佐川や日本郵便、ロボ・AI活用。


【積み下ろし時間を軽減、短時間配送ルートを探すAI】
 国内外の物流大手が先端技術による効率化を急いでいる。佐川急便はスタートアップと連携し、ロボットなどで荷物の積み下ろし時間を縮める取り組みを進める。日本郵便は人工知能(AI)で、配送経路を短時間で探す試みを始めた。新型コロナウイルスの影響もあり戸別配送の需要は増えている。「物流テック」が企業の競争力を左右する。

【佐川急便 ロボットを実用に向けて】
 佐川急便は立命館大学発のスタートアップ、キョウトロボティクスと共同で荷物の識別能力を高めたロボットを開発中だ。2022年度にも実証実験を始める。高精度の感知器を搭載し、登録をしていないサイズの荷物も自動計測しトラックから荷下ろしができる。
 物流業界で既に導入されている荷下ろしロボは、事前に登録したサイズ以外の荷物には臨機応変に対応できず荷物を下ろせないことが多かった。荷物のバーコードに登録した目的地も同時に読み込んでコース別に荷下ろしする。
 こうしたデータを効率的な配送につなげる。バーコードに記録された荷物の中身や数量などの情報を、IT(情報技術)コンサルティングのフューチャーアーキテクトが開発するデータベースに蓄積する。ルートごとに、荷姿や配送先に応じた貨物量を共有できる。

【積み替え作業の時間を短縮】
 宅配便では輸送距離に応じてトラックを複数回、中継地で積み替えることが一般的だ。荷物の情報をあらかじめ把握することで、各中継地の積み替え時に次の配送がしやすいよう順番で荷物をトラックに迅速に置くことができる。従来は、積み替え作業時に改めて配送先ごとに仕分けする時間が必要で、トラックの待ち時間などが発生していた。
 
【在宅可能性が高く、効率的な配送ルートをAIが表示する】
 専用機器で荷物のバーコードから過去の在宅率や「置き配」の活用状況などを読み込み、在宅可能性が高く効率的な配送ルートを表示する。
 従来は配達員が1枚ずつ荷物の伝票を確認して、配送ルートを決めていた。荷積みから出発までの時間がこれまでの半分以下になる。将来的には全郵便局での実用化を目指す。

 ヤマト運輸を傘下に持つヤマトホールディングスは、デジタル分野に強い人材の採用を強化する。過去の配送実績をデータ化し季節やイベントなどの情報と照らし合わせ、宅配需要の予測の精度を高める。配送員の効率的な配置に向け、3月に新たなデジタル組織を立ち上げ21年4月までに300人規模とする。

 海外でも先端技術を駆使した「物流テック」の運用が進む。国際物流大手の独ポストDHLグループは、25年までに在庫管理ロボットやピッキングロボットなどを含むデジタル化プロジェクトに約20億ユーロ(約2380億円)を投資し、倉庫の自動化に取り組む。
 日本ではまず、倉庫に統合的なシステムを導入する。小型の輸送ロボットを活用し、荷物の入出庫や庫内搬送の24時間自動化を目指す。
 傘下で倉庫業を営むDHLサプライチェーンが約50カ国の倉庫に順次、新システムを取り入れる。実現すれば生産性の向上などで年間15億ユーロ(約1785億円)のグループ利益を見込めるとしている。
 
 物流の自動化は欧米に比べ日本は立ち遅れているとの指摘が目立つ。欧州に比べ日本は中小の運送事業者が多く、画一的な自動化の技術の取り込みも進みにくい。
 ある国内の物流大手の幹部は「効率的な物流テックを導入した企業は人材の採用で優位になる可能性がある」と指摘する。荷物の増加で人手不足は今後さらに進むとみられ、配送効率の引き上げが急務になっている。
(宇都宮想)

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