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オリバー・ストーンの映画『ウクライナ・オ ン・ファイヤー』

今日は映画の感想を書いてみたい。

オリバー・ストーン監督が製作総指揮したドキュメンタリー映画『ウクライナ・オン・ファイヤー』(2020)。ぼく自身はウクライナのことにはなるべく触れたくないにもかかわらず、あまりに優れた作品なのでつい触れてしまう。

さてオリバー・ストーン監督と言えば、『プラトーン』、『7月4日に生まれて』で二度のアカデミー監督賞を受賞したことで名高い。

他にも『JFK』や『ドアーズ』『スノーデン』など代表作がわんさかある。押しも押されぬ名監督である。

現在のストーン監督は、アメリカの陰謀をあぶりだすドキュメンタリー映画に力を入れている。そしてこの人が制作したウクライナに関するドキュメンタリー映画が『ウクライナ・オン・ファイヤー』だ。

アカデミー賞二度受賞の名匠が本気で作ったらこうなるという唸るような優れた作品で、上映時間は1時間31分。日本語字幕付きの全編をYouTubeで見ることができる。

ぼくはこの作品のことを、世界情勢アナリスト高島康司氏のFacebookページで昨日知った。

2016年にオリーバー・ストーン監督が制作した秀逸のドキュメンタリー。ウクライナという国家の裏と真実が実によく描けている。日本語に字幕があるのでぜひ見たほうがよいと思う。

Posted by Takashma Yasushi on Tuesday, March 1, 2022

ウクライナの歴史から、2014年のマイダン革命とクリミア併合までをじつに詳細にわかりやすく解説してくれている。

2016年に発表されたにもかかわらず、現在ウクライナで起こっていることをおおよそ正しく予測していることにおどろかされる。なぜこれほど正確に予測できたかというと推測の部分が当たっていたということだろう。

よく「歴史は繰り返す」というけど、マークトウェインいわく「歴史は繰り返さない。ただし韻を踏む」のだそうだ。この映画の冒頭に引用されている。

韻を踏むということはポイントポイントで共通点があるということ。

2014年のマイダン革命ときに、アメリカがどう介入したか、それをメディアがどう報道したか、そして民衆がどう反応したかをていねいに検証していくと、今起こっていることをだいたい正確に予測できてしまう。

ぼくが四の五の言わなくてとも、とりあえずこれは見ればわかるので、じつにありがたい。『風の谷にナウシカ』を見れば環境問題のことがわかるのと似ている。

これを見たうえで何かを言うのならわかるが、見ないでなにかを言うのは単なる無知である。こんなふうにぼくも大きく出ているが、昨日見たばかりである(笑)。

さて映画はYouTubeでみてただくこととして、この記事では、この作品を真正面からあつく語るようことはせず、サイド攻撃してみよう。

さて、いきなりだがウクライナはいったん置いておく。まずは国際情勢一般についての正しいスタンスについて考えてみよう。

ぼくが国際関係を考えるうえでかねてから大事だと思っているのは、問題を自国の問題に置き換えて考えてみることである。

アメリカをアメリカとして、ロシアをロシアとして語ろうとするとどうしても議論がうわすべりになる。

それを避けるには、どこの地域のどこの国の問題であろうと、まずは自国の問題に置き換えてみることだ。身近な問題におきかえることで、状況を多面的に理解できるようになる。

ウクライナとロシアがいま置かれている立場をぼくら日本人が肌身に感じるには、まずは日韓関係、日中関係におきかえて考えてみるのがいい。

というわけで、ウクライナ問題を日韓関係の懸案である「慰安婦問題」に置き換えて考えてみよう。

日本人で、慰安婦問題が韓国の主張するとおりだと思っている人はいないだろう。韓国の慰安婦理解はあまりに理不尽だ。だが一方で、慰安婦問題がまったくの事実無根だと考えている日本人もそんなにいないとおもう。一部の極右だけである。

つまり、韓国の人たちが被害を受けたと感じるようななんらかの出来事はあったらしく思われる。ただし韓国側が主張しているほど大規模でも残虐でもなかったのではないだろうか。

慰安婦問題の実体は、韓国側が主張しているほどブラックでもなく、さりとて日本の極右が主張しているほどホワイトでもない。そのあいだのグレーなところに真相があるはずなのである。

これは南京大虐殺もおなじだ。中国が主張するほど大規模でもないが、かといってまったくなにもなかったわけでもないだろう。

しかし、である。国際世論はグレーを認めないのだ。白か黒かにしてしまう。そして慰安婦問題や南京問題では日本がブラックだと国際的に認められている。

日本人からすればやりきれないが、一度まとわりついたブラックなイメージをぬぐうことはなかなかできない。

いくら安倍さんが「事実はちがう」と主張しても、他方には泣き叫ぶ慰安婦の方々がいる。肚黒そうな安倍さんと、泣き叫ぶ元慰安婦。国際世論がどちらの味方をするかというと、泣き叫ぶ女性に決まっている。

元慰安婦は純粋な被害者であり、安倍さんは「ブラックなオヤジ」で決まりだ。

自分の周囲を考えてみれば世の中のほとんどの出来事はブラックでもホワイトでもなくグレーに決まっているのに、国際世論ではなぜかブラック&ホワイトなのである。

この映画の中でジャーナリストのロバート・ペリー氏が語っているように、いったん世論がそうなってしまった場合に「もうちょっと冷静に考えよう」などというと、「おまえは悪魔プーチンの手先か!」という感情的な反応を受けて黙殺される。

韓国でも、慰安婦問題について「やりすぎでは?」みたいな声を上げれば「おまえは親日の売国奴だ」と言われて社会的に抹殺されるだろう。

これは日本で「ちょっと韓国側の言い分も聞こう」といえば「在日認定!」と言い出すバカがいるのと同じだ。

2014年のウクライナのマイダン革命もおなじだった。

当時のヤヌコーヴィチ大統領は「暴君」としてクーデターで政権を追われ、ロシアに亡命した。ぼくも長年、かれが悪の大統領だと思っていた。

しかし、この作品にはヤヌコーヴィチ氏とストーン監督との長時間の対談が収められている。また、ヌコーヴィチ氏が大統領だった際のさまざまな映像も収められている。

それを見れば誰でもわかるが、ヤヌコーヴィチ氏のしゃべり方、ボディランゲージ、表情、目の色から大半の人が受ける印象は「素朴で不器用な人」だ。

スピーチも下手で、カリスマもない。メルケルとしゃべっているところをみると握手も不器用で、交渉も下手そうだ。スニーカーのひもを上手に結べなさそうなタイプの人である。

政治家として切れるタイプではない。たぶん人望だけだったのだろう。

彼がEUとの交渉にしくじって国民の怒りを買ったのは想像できる。しかしその後世界中がイメージしたような「暴君」ではありえない。

ただし、いまそれがわかるのは彼がまだ生きているからだ。ロシアに入る前に何度も暗殺されかかっており、あそこで殺されていたなら、いまでも世界中は彼を暴君として記憶していたはずだ。つまり暗殺しようとした勢力がいる。

ウクライナは、太平洋戦争後の日本と似ている。日本軍は戦後いったん解体されたけど、朝鮮戦争が始まったのちに自衛隊として再編成された。ソ連への防波堤にするためのアメリカの都合である。

ウクライナにも第二次世界大戦でナチスに加わって活躍した勢力がおり、15万~20万人のユダヤ人を虐殺したそうだ。その後ナチスドイツは解体されたがウクライナのナチス部隊は温存された。ソ連に対する防波堤として使うためだ。

それが戦後、アメリカの資金援助を受け、極右として長く勢力を保ち、やがてヤヌコーヴィチを暴君に仕立て上げて、2014年のクーデターを起こした。その勢力がクーデター後の政権に食い込み、現在まで勢力を保っているようすを映画は詳細に検証している。

ぼくら一般市民がいちばん気をつけないといけないのは、感情的になることだ。そのことは昨年の米議事堂乱入でも思い知らされた。

感情的になった一般市民があつまると、その燃料に火をつける過激分子がかならず現れる。そして暴動がおこり市民が犠牲者になる。そして犠牲者の母親が息子の写真をかざして行進すれば、国際世論は永遠に彼らの味方だ。


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