見出し画像

まちがって2冊買った本

ススキノ探偵シリーズで知られる作家 東直巳氏の作品に「南支署」シリーズというのがある。シリーズと言っても2作しかない。

『札幌方面中央警察署 南支署 誉れあれ』
『札幌方面中央警察署 南支署 誇りあれ』

見てわかるとおりタイトルがややこしくてよく似ている。

数年前、1作目の『札幌方面中央警察署 南支署 誉れあれ』を読んだあと、2作目の『札幌方面中央警察署 南支署 誇りあれ』をネットで購入しようと思ったときに、「はて?」自分が読み終わったのが『誉れあれ』だったのか『誇りあれ』だったのかわからなくなってしまった。

手元に本がなかったので「あとで確認しよう」とおもって買わなかったけど、あのままポチっていれば同じ本を二度買っていた。

これはもしかすると作者の狙いではないか。東直巳さんの性格を考えるとそういう気がする。わざとタイトルを似せておいて「まちがって2冊買ってくれれば部数がのびるな~」とでも考えたのではないかと思う。

この作者には『札幌刑務所 4泊5日体験記』というノンフィクションもあるが、50ccバイクの18キロオーバーで7000円の罰金を食らい、それを支払い拒否して札幌刑務所に収監されたときの体験をつづったものだ。ノンフィクションなので、主人公は東さん本人なのだが、その語り口調は「ススキノシリーズ」のオレそっくりのふざけた感じである。

「4泊5日」といっても、実質は1日だ。まず収監手続きに半日かかっている。さらに、膨大な荷物を持ち込んだのでその引き受け手続きに半日かかっている。そのうえで刑期の一日は日曜日だったので房内でメシを食っていただけだ。そして出所前には半日かけて健康診断をやってもらい、さらに膨大な荷物の受けだし手続きに半日かかっているので、刑務作業とよべるようなことは1日しかやっていない。三度三度タダメシを食い、レントゲンを撮ってもらい、締め切りを忘れてぐっすり寝れたので、確実に健康になったそうだ。さらに、本を一冊書くネタができたといっている。

そういう人なので、自分の読者なら2冊買わされてもシャレで済ませてくれると思ったのかもしれない。

ぼくはその手に乗らなかったけど、なぜか初期の短編集『ライダー定食』というのを2冊買ってしまった。世の中ウマくできており、結局は、帳尻が合うようになっている。

南支署というのは、ススキノ一帯だけを管轄する架空の警察署である。腐敗のはびこる北海道警察の中で正義をつらぬくヘンクツ刑事ばかりが左遷されてくる「正義の砦」という西部劇のような設定だ。

主人公は新米刑事のキゼツ(梅津巡査)。自分が役に立たない新米だと自覚しており、人一倍謙虚で、そして人一倍頑張り屋で、けっして弱音をはかない。けどキゼツはする。

そういうキゼツは毎日、勉強になったことをメモする。たとえば「お昼の出前はめんるいを頼まないこと(緊急出動のあとで伸びて食べられなくなるから)」「靴下が濡れても脱がないこと(出足が遅れるから)」などと些細なことまですべて書く。すこしでもはやく成長し、みなの足手まといにならないようにと必死である。警察官だった父を尊敬し、一度も法律違反をしたことがない。

こうゆうキゼツが、やがて大きなヤマを解決することになるわけだけど、どんな主人公も大なり小なり作者の分身だとすれば、シャレと好奇心で刑務所に入った東さんの中にも、キゼツのような愚直な一面があるんだろうか・・と、ふと考えてしまう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?