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オタクな子どもをがっかりさせるテクノロジーに未来はない

ぼくが毎日見ているウェブサイトに「エルミタージュ秋葉原」というのがある。独立系の秋葉原の最新情報サイトだ。

たとえば、「今日はどこのショップでHDDを安売りしている」とか、「〇〇ラーメンが斜め前に移転した」とか、興味のない人にはホント―にどうでもいいアキバの最新情報を伝えてくれる。

でも、あの街でしか売っていないおもしろいものについても、たくさんの情報が載っているのである。たとえば、最近、じつにおもしろ記事を読んだんだけど、これだ。

東芝のレトロPC「パソピア」の機能を拡張できる、コンボ仕様の拡張カード「XPAC2 Rev.2」が家電のケンちゃんに入荷

税込16,500円だそうだ。「東芝パソピア」というのは、1981年に発売されたパソコンだ。つまり41年前のパソコン用の拡張カードが即完売しているわけだ。

さて、現在のパソコンは64ビットだけど、Windows XP では32ビットだった。しかし、その前に16ビットパソコンの時代もあったわけで、16ビットでは「ウインドウズ」は動かない。

しかし、1981年というと、さらにその前のなんと「8ビット」の時代である。8ビットパソコンではカタカナしか打てないので、文章も「コンナカンジデス」。

そういう時代に発売されたパソピア7。「勝つ快感」

勝つ快感

漢字すら打てないので、勝つ快感はあっても実用性はゼロだった。要はゲーム機である。

そのための拡張カードが、2022年のいま、1万6000円で発売されて「入荷とともに即完売」している。「2年以上前に一度販売され、即完売」だったそうで「次回入荷も1~2年後くらいになるかも」とのこと。人気沸騰だ。

この拡張カードに「自分で漢字データを書き込めば」、漢字も使えるようになるとのこと。そりゃあ、すごいぜ!「ソクカンバイ」じゃなくて即完売になるはずだぜ!

でも、このカードを使うためにはそもそも高いハードルがある。41年に発売されたパソコンを持っていなければならないし、しかもちゃんと動くやつを持っていないといけない。

そういうものを持っている人たちが先を争ってこのカードを購入し、即日完売しているのがアキバである。異次元の世界だ。

でも、これがマニアってものなのだ。
この熱さがオタクな世界を支えてきた。

じつはぼくも、当時、東芝のパソピアではなくシャープのMZというパソコンを持っていて、いまだに大事にしている。ちゃんと動くし、ときどき電源を入れてゲームもやっている。

じつはこの手の拡張カードを作ろうと考えたこともある。だからこの記事も、「MZ用はないの?」と思いながら読んだわけで、彼らの同類である。

このように子どもの頃に買った8ビットパソコンでいまだに遊んでいるような連中が日本のIT業界を支え、オタク文化を支えてきたわけだけど、こういう人たちを引き付けるには、性能だけではだめである。

今一番安いパソコンでも64ビットCPUなら処理能力は、2の64乗を2の8乗で割って1000京の1.8倍かな?合ってるかわからないけど、ごく控えめに言って莫大な差がある。しかし、いくら速くても遊び心がないとオタク心に火はつかない。

クルマオタクには、最新のトヨタプリウスより1970年製の2000GTのほうがおもしろいのとたぶん同じだろう。

さて、話は変わるけど、いまではすっかり「ウインドウズ」全盛の時代になってしまった。でも、かつて日本には国産OS「トロン」というのがあったのである。

とてもすぐれたOSだったそうだが、日米貿易摩擦でアメリカに狙い撃ちにされ、高関税をかけてつぶされてしまった・・という話になっている。アメリカの圧力がなければ、日本のトロンが世界標準のOSになっていた可能性があるともいわれている。

うん、そういう面も、ほんのちょっぴりはあったかもしれない。

でも、いまになって国粋主義者の人たちがウインドウズよりトロンのほうがすごいというような「日本すごい動画」を盛んに上げている。たとえば、こんなの

あるいは、こんなのやらずらずら出てくる。

でも、当時中高生だったぼくらの感触からすると違和感があるのだ。なんかちがうんだよな。

この手のナショナリストは、パソピアなんか触ったことないだろう。アキバに拡張カードを買いに走ったりしないだろう。今になって騒いでいるだけだ。

トロンはおもしろくなかった。
ゲームがなかったからだ。

ためしにSNSを検索してみると、当時トロンにかわっていた人たちがいろんなことを書いているけど、アメリカにやられたといっている人はひとりもいない。あえていうならNECの裏切りでつぶれたといっている人がほとんどだ。でも、アメリカかNECかという話は、アキバでパソピアをいじっている連中にとっては、あまり関係ない。

このスレッドを読んでぼくがいちばんピンときたのは、当時中高生だったパソコンオタクの声だ。

「学校がトロン指定校になってトロンPCが入ってくるとしょんぼりだった」と書かれている。おもしろいゲームがないからだ。

トロンにおもしろいゲームがあれば、放課後にオタクがむらがって離れなかっただろう。そこからいろんなものが生まれていたと思う。

いまだに40年前のパソピアの拡張カードを先を争って買っているおじさんがいるくらいだから、もしトロンにオタク少年を惹きつけるおもしろさがあれば、いくらアメリカに脅されても、いまでもアキバにはトロンで遊んでいる人が絶対にいるはずなのだ。

Nintendo Switchもプレステもアメリカにつぶされていないし、トヨタもホンダもつぶれてない。トロンがMS-DOSに負けたのは、あまりに工業用というか、遊べる環境がなかったからだ。

ウインドウズ95だってすぐ落ちるし、エクセルもワードもろくなもんじゃなかったけど、強かったのはおもしろいゲームが多かったからだ。その点は、コモドール64でもアップルIIでも同じで、オタクな子どもをしょんぼりさせるテクノロジーに未来はない。

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