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一生もののギャグ

世間では毎年あたらしいお笑いというのが流行る。しかし新たに流行るものとはべつに、じぶんにだけ長くツボにはまっているギャグってないだろうか?ぼくは、たぶん一生ウケるだろうというのがいくつかある。たとえば、タカトシさんの「欧米か!」である。もうすでにご本人たちもあまりやらなくなっているし、世間からも求められていないのかもしれないが、ぼくは今見ても流行っていたころとおなじだけウケてしまう。生涯、流行ったままである。一生もののギャグだ。

なぜここまでツボなのかを考えてみたんだけど、まず挙げられるのは絶妙なヘタウマ感である。いま検索していたらトシさんが「欧米か!」の誕生を語る動画が出てきた。このネタはもともとは「昔か!」だったのだそうだ。タカさんの書いてきたネタに「昔か!」というツッコミがあり、「なんだこの下手なつっこみは」となっていたのだという。それが芸人仲間にみょうに受けるので、「なんかひっかかるな・・」となり、似たようなものが他にないかなと考えてでてきたのが「大人か!」なのだそうだ。そしてつぎが「欧米か!」だったのだという。いまネタ動画をみていたら「特殊か!」というのもあった。感じは似ている。うまくいえないけど、みょうにヘタウマな感じがまずイイわけだ。そこまでは世間と同じである。

そのうえで次にあげられるのは、ぼく自身が「欧米」というものについて、そしてこの国の欧米コンプレックスというものについてあまりにも長く複雑に考えすぎて、考えが複雑骨折しているという点がある。

あまりにも複雑に考えすぎて、そもそも「欧米」というコトバが頭に浮かんでこないほどだ。最初にアタマに浮かぶのは「アメリカとイギリスではだいぶちがう」ということである。そこからはじまる。そしてフランスもあるし、ドイツもあるし、イタリアやギリシャもあるとおもう。東欧諸国のことも考える。そして夏目漱石について考える。

しかし「欧米か!」とバシッとアタマを叩かれた時点で、アメリカもフランスも漱石ない。あるのは「おうべい」だけである。この痛快な感じは一生つづくだろう。

ところで、響(ひびき)というお笑いコンビの「どうもすみませんでした」も一生ウケるとおもわれる。ネットには「なつかしい・・」と書かれていたが、ぼくはいまでもときどき動画を再生してウケている。

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この顔で「どうもすみませんでした」と言う。これは心理学用語で「ダブルバインド(二重拘束)」とよばれている現象だ。ダブルバインドとは1つのメッセージの中に矛盾した2つのメッセージが含まれている状態をいう。響のネタのばあいは、ことばの上では謝罪しているが、表情は謝罪していない。こういうのがダブルバインドだ。

ふつうは、ダブルバインドがあると混乱が生じる。たとえば親がこどもに「怒ってませんよ」とニコニコしながらバシッと叩くとダブルバインドになる。こどもは親が怒っていないのか、それとも怒っているのかどっちを信じていいのかわからなくなってストレスがかかる。

今、日本の社会はダブルバインドにおちいっているのだそうだ。臨床心理学の先生がそう言っている。「五輪のお祭りムードが徐々に醸成され、一方で緊急事態宣言という矛盾する2つのメッセージが出ている」。つまり、アタマでは危ないと思いつつ、ムードが浮かれてきているということだ。五輪そのものは成功するかもしれないが、その明るさが感染を広げるながれになっている。そういわれればそのとおりなのだが、ぼくはこの展開を予想していなかった。

明るさが社会を救い、暗さが社会を危うくするのだと思っていた。しかし、現状では明るさが社会を危うくしている。野球の開幕戦もずいぶんおもしろかったが、おもしろければおもしろいほど危機がひろがるというのは皮肉なことだ。



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