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『細雪』

市川崑監督の『細雪』(1983)という映画がスキだ。原作は谷崎潤一郎。映画はなんども見たけど原作は読もう読もうとおもいつつ読んでいなかった。長いのである。中公文庫で936ページあるそうだ。てきとうに取りかかったら途中で放り出してしまうのが目に見えている。

・・で、いま読んでいるところだ。日本文学全集なので2段組みで文字が詰んでいるけどそれでも570ページある。200ページを越えたところでまだ半分まで来ていないが、映画で展開を知っているので「まあ、こんな感じで続いていくんだな」というのがだいたいつかめた。

よみおわってから感想を書こうかと思ったけど、書きたくなったので書きたいときにちょろっと書いておこう。

まあ、すばらしいですね。最初にノーベル賞をとるべき人だったのではないか。読み終わっていないのにもう読み返したいと思っている。休憩のつもりで手にとると読む手が止まらなくなる。20代で読んでいれば今ごろは3読目にはなっていただろう。年齢に合わせていろいろと感想が変わったはずで、わかいころの自分の感想を聞きたいと思う。さぞくだらないことを言うだろうが「自分の好きな作品だ」とは言っているはずだ。惜しいことをしたなあ。

大阪の富裕な商人の家に生まれ育った美人4姉妹が蝶よ花よとのどかにくらしている情景がえんえん描かれている。しかし、時代は満州事変のころだ。でもそういう話は100ページに1回くらいしか出てこない。京の桜を見にいったり神戸元町の喫茶店に入ったり舞の稽古をしたりして暮らしている。悪人は出てこないし物語の起伏もない。

谷崎がこれを書いたのは戦争末期である。空襲警報が発令されて家族全員が防空壕に逃げこんだあとで、ひとり屋敷に残って『細雪』を書き続けていたそうだ。いつアタマの上で爆弾が炸裂するかわからない状態でこの「蝶よ花よ」を書いていたんだなとおもいながら読み進めると迫力がある。失われた風景への憧憬を筆でよみがえらせて爆弾と戦っていたんだろう。

ところで最近、こういう記事を読んだ。

そこで話題になるのは、食料や衣料品、医薬品など、日常生活に関するトピックばかり。
IS支持派の女性たちも、キャンプ生活が長引くうちに、宗教的なトピックへの関心は薄れ、もっと日常的な問題に関心を持つようになる。

『細雪』の中心になるのは、3女 雪子のお見合いである。市川映画では吉永小百合さんが演じていた。上の写真にその感じがぜんぶでている。吉永さんだけチョット引っ込んで目線の角度がちがっているじゃないですか。言いたいことも言わないでシクシク泣いているのが3女なんだけど、結局まわりが哀れに思って彼女のおもうようになっていく。

「雪子ちゃんは黙ってて何でも自分の思うこと徹さな惜かん人やわ」
と、幸子が言った。
「――見ててごらん、今に旦那さん持ったかて、きっと自分の云うなりにしてしまうよってに」

いろんなお見合いをなんたらかんたらと断り「行き遅れる」と周囲をハラハラさせつつ最後にいちばんいい男を引き当てるという風に映画ではなっていた。ISだろうと太平洋戦争だろうとだれが一番強いかというのはなかなかわからないものだ。

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