車上生活者は、これから増えることはあっても減ることはないだろう
車上生活というとやはり『ノマドランド』である。
いい映画だった。
この映画で描かれる車中泊はレジャーではなく、家を捨てた人たちの車中泊コミュニティだ。
一方、日本にはまだそれほど本格的な車上生活者コミュニティというのはなさそうだ。ぼくが知らないだけかもしれないけど。
国土が狭いからとか、いろんな理由があげられるだろうが、かつてクルマ社会についても同じことが言われていた。「日本は国土が狭いからアメリカのようなクルマ社会はやってこない」などと言われたが、クルマ社会はしっかりやってきた。
家を捨てるブームも、アメリカから5~10年くらい遅れて流行りだすだろう。
この国の地震の多さではアメリカの比ではないので、安全を確保するという意味でも家を捨てる暮らしは需要が高そうである。
さらに、家を捨てる暮らしの大前提は1人暮らしだということで、おひとりさまが広まっているこの国には適した環境に思える。
また、高齢で家を借りられなくなった人が車上生活に踏み込むことも考えられる。
家というのは、残された遺族にとっては遺品整理とか建て壊しとかなかなか大変なものなのである。
車上生活はまだまだ異端視されているが、貧困と一人家族化がさらに進めば踏み込む人も増え、ごく普通の人が家を捨てる時代がやってくるにちがいない。
そのパイオニアともいえるのが、井上いちろうさん(53)という漫画家さんだ。車中泊人生をマンガのネタにしつつ、全国を回って生きている。
文春オンラインに2回に分けて長文のインタビューが掲載されている。
リアルに車中泊人生を送っている井上さんの話は、ひとつひとつがおもしろい。2回にわたるインタビュー以外にマンガも一部掲載されているので、それを読むだけでも結構あります。
第一話&二話
第十九話&二十話
第三十三話&三十四話
その中から印象に残っているポイントを2か所だけ。どちらも「距離の感覚が変わる」ということについてだ。
井上さんは「あてのない旅は自由であるけど不自由」だという。今年は8月に岐阜の郡上おどりに行くことは決めているのだそうだが、それだけでワクワクするのだそうである。
ぼくらは、目的地があるのを当たり前のように思って生きている。たとえば、ハワイに行くとしよう。観光旅行だとしても、移住するのだとしてもそれは起点と終点のある旅だ。
しかし、井上さんの旅にはいく場所も帰る場所もなくて、すべての場所が通過点なのである。たえず移動しなければならず、
という言葉になる。
もうひとつは、第三十三話の「距離と時間の感覚が変わる」という話。
これはすべての場所が通過点だということの裏返しだ。
いい面も悪い面もあるだろうけど、はっきりしていることがひとつあり、それは車上生活はこれから増えることはあっても減ることはないということだ。
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